第52章 そんなことがあるなんて
「あいつの母親は、佐原七香だったんだ」
「そんなことあり得るんだな」
「…俺だって最初は受け入れられなかった」
「いつ知ったんだよ」
「高校1年の時、あいつの担任だっただろ?それで3者面談の時に久しぶりに会ったんだ、っていうか本当は思ってた、少し似てるなって」
そう語る直哉はまさに真剣そのものだった。
「……お前が人生で一番本気になった女だもんな」
「ああ、だけど突然意味もわからず捨てられたさ。でも憎みきれなかった、本気だったから」
「…よく覚えてるさ」
「学生の頃、本気で結婚しようと思ってた。それなのに急にあんなことになって、まあ向こうも気まずそうだったよ」
「……七香さん、綺麗だったし最高の女だったよな、まあお前のだらしなさに愛想つかしたのかとも思ったが(でもそうじゃないんだなって別れた後に話して思ったんだよな)」
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別れてからというもの、直哉はすっかり元気をなくしていた。どんなことでも笑うやつだったのに驚いた。そして、飲みに行こうと誘ってもあまり乗ってくれなくなった。そんなことは初めてだった。だから、あいつの笑顔が見たくて一回七香を呼び出したことがあった。
「急に呼び出してすまなかったな」
「いいえ、大丈夫よ」
「あいつのだらしなさに愛想尽かしたのかもしれないが、多めに見てやってくれないか」
「…」
「もう限界か?でももう随分と付き合ってたわけだし、それにあいつがお前に相当惚れ込んでるの知ってるだろ?」
「別に嫌いじゃない、むしろ!」
そう叫んで、彼女は涙ぐんでいた。
「…とにかく無理なの、ごめんなさい」
本当は別れたくないのに別れるしかない、そんな感じだった。でも、彼女だって辛そうでそれ以上あの時咎めることなんてできるわけがなかった。
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「まあそれもあったかもだけど、どうやら親に決められた相手と結婚させられたらしいんだ。で、そいつはかなりの大金持ちだったらしいけど、お金は全然七香に渡さずに不倫三昧だと」
「…それを何のためにお前に話したんだろうなあ?」
「助けてほしいからなのかな、俺は今でもあいつを忘れられない。いろんな女と付き合おうとしたけど全然長続きしなかった」
「……それで、花沢を気にかけていたのか」
「ああ。あいつは、俺が愛した人の子供だ。……俺が守ってやれなかったやつのたった一つの希望なんだよ。だからよく気にかけて話をするようになったんだ」
直哉の言葉には、教師という枠を超えた、執念に近い祈りが籠もっていた。
「最初は可愛げない生徒だったよ、だけどずっと佐倉を追いかける姿を見てたらなんだか可愛いやつだなーなんて思うようになったんだ」
「そうか」
自分の恋敵の応援?つーか後ろで支えてたのがまさか親友のお前だったなんてな




