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第51章   男同士のドライブ

「……お前の運転、相変わらず荒いな。事故を起こさないか心配だが、今日はよろしく頼むよ」

 本原は助手席のシートベルトを締めながら、少し呆れたように言った。運転席の直哉は、使い古されたジーンズにラフなパーカーという、学校でのスーツ姿からは想像もつかない軽装でハンドルを握っている。

「うるせーな、大人しく乗ってろ。美味いハンバーガー屋を見つけたから、連れてってやるって言ってんだよ」

 車は市街地を抜け、海沿いの通りへと入る。本原は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていたが、ふと、隣で鼻歌を歌う直哉に視線を向けた。

「……直哉。本当は、最近の俺に元気がないから、気を利かせて誘ったんだろう?」

「……っ、ちげーよ! 俺がハンバーガー食いたかっただけだっつの。……その代わり、お前の奢りな」

 直哉は顔を赤くして、照れ隠しにアクセルを少し踏み込んだ。図星を突かれた時の子供っぽさは、昔から変わらない。本原は「ああ、分かったよ」と小さく笑い、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。目的地に着くと、そこはウッドデッキのあるお洒落なハンバーガーショップだった。だが、店先にいたのは見慣れた顔ぶれ——数人の生徒たちだった。

「えっ、嘘! 本原先生!? 私服姿、めっちゃいい」

「ああ、ありがとよ、って直哉はどこに、」

「男子たちとふざけ合ってます」

「なおっち、そのパーカーはセンスないなー。もっとマシなの着てくればいいのに」

「うるせえぞ、お前はこの」

「いてて、ごめんなさい」

  生徒たちとふざけ合って、ひとまず注文を終えて席に着くと、生徒たちが何やら話している。

「……なんかさ、直哉先生って『楽しい兄貴分』って感じで話しやすいけど、本原先生は『余裕のある頼れるお兄ちゃん』って感じだよね」

「わかる! 進路相談とか、人生の重い悩みは断然、本原先生。あの落ち着いた声で言われると、全部大丈夫な気がするもん」

 そんな話をしている時だった。店から少し離れた路地裏で、低い怒鳴り声が響いた。一人の男子生徒が、いかにも柄の悪い男たちに胸ぐらを掴まれて震えている。

「おい、無視かよ。ちょっと話聞けって言ってんだろ」

 生徒たちが息を呑んで立ちすくむ中、真っ先に動いたのは本原だった。

「そこまでにしてください。……俺の大事な生徒に、何か用ですか?」

 冷徹なまでに静かな声。だが、その瞳には相手を射抜くような鋭い光が宿っている。

「あ? 誰だよお前。部外者はすっこんで——」

「俺の生徒だって言ってんだろ、そろそろキレるぞ」

 一歩も引かない本原の威圧感に、男たちは舌打ちをしてその場を去っていった。腰を抜かした男子生徒に、本原はそっと手を差し伸べる。

「……怪我はないか?」

「は、はい……。すみません、僕、怖くて……」

 本原は生徒を立たせると、彼の肩にポンと手を置き、少しだけ表情を和らげて言った。

「男なんだったら、もう少ししっかりしろよな。……いつか本当に大切な人が困った時守ってやれないと困るぞ」

「……っ、はい! ありがとうございます、先生!」

「かっこいい……! やっぱ本原先生、推せる…」

 遠巻きに見ていた女子生徒たちから、溜め息のような歓声が上がる。隣でその様子を見ていた直哉は、わざとらしく「やれやれ」と肩をすくめた。

「ったく、いいところ全部持っていっちゃってさあ、つうか、早く食おうぜ」

「ああ」

 生徒たちと解散したところで、ようやくのハンバーガータイムだ。

「で……最近、あのことはどうなんだよ。」

 本原はポテトを掴む手を止め、わずかに視線を伏せた。

「……んー。ちょっと色々忙しくて、構えてなくてな。……あんまり、うまくいっていない」

「そうかよ」

 直哉はため息をつき、包み紙を丸めた。

「まあ、花沢は佐倉のことがずっと好きだもんな。あいつの執念は相当だぞ」

 本原は、目を見開いて直哉を凝視した。

「……お前、なんでそれを知っている。花沢が香苗を想っているなんて、俺いったか?」

「あー……お前にいうつもりで言ってなかったんだが、その」

「なんだ、煮え切らねえな」

「…花沢の母親の旧姓は佐原だ」

「それがどうしたっていうんだよ、いきなり…!?まさかそんな偶然あるわけ、」

「あったんだよ、俺だって信じられなかったさ、だけど、」

 そうして、直哉は驚くべき事実を話すのだった。本来ならありえないような話があったのだった。

 


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