第47章 先生なんて
3年生になって初めてのテスト結果の返却日。震える手で受け取った成績表には、学年13位という、今までに見たこともない数字が並んでいた。
「……やった」
真っ先に浮かんだのは、先生の顔。頑張ったね、と。あの低い声で褒めてほしくて、私は足早に職員室へ向かった。けれど、廊下の角を曲がった瞬間、私の足は凍りついた。
「先生見て! 言われた通りにやったから、今回10位だったよ!」
先生のデスクの傍で、一人の女の子が弾むような声で笑っていた。少し短めに詰めたスカート、サラサラの髪。そして、私よりも上の「10位」という数字。
先生はいつもの穏やかな顔で、「そうか、よく頑張ったな」と彼女の頭に手を置こうとして――。
(……見たくない)
私は咄嗟に壁の影に隠れた。先生にとって、私は数多くいる「頑張っている生徒」の一人に過ぎないんじゃないか。
「先生にとって私は特別じゃないんですかー?」
なんて口をとんがらせて言ってみる。けど本人に言いたくても言えなくて。視界がじわじわと滲んで、13位という数字が涙で歪む。情けなくて、惨めで、逃げ出したい。
「……何、泣きそうな顔してんだよ」
不意に上から降ってきた声に心臓が跳ねた。見上げると、そこには花沢くんが立っていた。
「……っ、別に。なんでもない」
「なんでもないわけないだろ。……今、思いっきり目逸らしたな」
花沢くんは呆れたように息を吐くと、私の隣に並んで壁にもたれかかった。
「話、聞くよ。……どうせアイツのことだろ」
その真っ直ぐな優しさに、張り詰めていた糸が切れそうになった。花沢くんにだけは、今の無様な自分を見られたくなかったのに。
私が口を開こうとした、その時。
「花沢ー! お前、今日のバスケ部のきてくれるんだろ」
遠くから部活の仲間の声が響いた。花沢くんは「あ、忘れてた」と苦笑いして、私の頭を一瞬だけ、乱暴に、でも優しく撫でた。
「……続きは今度。逃げんなよ」
そう言い残して、彼は走っていってしまった。一人残された廊下。職員室からは、まだ先生とあの女の子の楽しそうな声が聞こえてくる。
「先生のバカ」
静かにそう言い残し、帰路に着く途中にスカートのポケットに入れていたネックレスが落ちてしまった。それに気づかずにそのまま歩いていってしまうのだった




