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第34章   修学旅行へ

 いよいよ修学旅行に行く時期がやってきた。ずっと楽しみにしていたイベントだ。

「みんな、今日からいよいよ本格的に準備を進めていく、まずは班決めだな」

 修学旅行において一番大事なところは誰と回るかだ。なんとしてもゆかりと一緒がいい。話したことない人となんてつまらなすぎる。

「…ま、最後だし自由でいいぞ?」

 本当に良かった、最近このことが気になって眠れなかったくらいだ。

「おー!ゆかり一緒に回ろ」

「うんうん」

 そうして決まった修学旅行の班。希望が通って、ゆかり、花沢、私、そして田中という、男女それぞれ仲のいいグループで組めることとなった

「京都とかマジ最高! 映えスポット全部回ろうよ!」

「おいおい、お前そんな回れねえだろ」

 ゆかりがスマホを片手に盛り上がる中、冷静に突っ込む田中、そしてそんな2人の様子を珍しく笑う花沢。そんか楽しげな会話、旅行の計画を立てる高揚感。香苗もその輪の中で笑いながら、ふと視線を彷徨わせる。

 準備が進むにつれ、班の空気は最高潮に達した。

「夜はここ行こうよ」「食べ歩きリスト、これだけある!」

 皆が未来の楽しい思い出を語る中、花沢くんが不意に香苗の隣に歩み寄ってきた。少しだけ照れたような、けれど決意に満ちた表情で。

「……佐倉、俺さ、修学旅行でどうしてもしたいことがあるんだ」

 香苗はきょとんとして、首を傾げる。

「え? 何? お寺巡りとか?」

 花沢くんは首を横に振る。その瞳には、彼なりの真っ直ぐな、そして香苗を大切に思う温度が宿っている。

「えっと、あでもさ神社は行こう!妹さんの病気が良くなりますようにって」

 そうして香苗が花沢くんを見るとかつてないほど愛おしそうに香苗を見つめていた。

 「……ああそうだな、ありがとう、俺やっぱりもう迷わない、お前のことに対して」

 そう言って静かに微笑んだ。一体なんのことなのだろうか、と思いつつもなんだか少しだけ勘繰ってしまってドキドキしてしまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 京都へ向かう準備が進む夜。香苗は布団の中で、さやかに電話をかけていた。

「ねえ、聞いて。花沢くんが、修学旅行の夜に『どうしてもしたいことがある』って言うの」

 さやかは少しの沈黙の後、ニヤニヤと声を弾ませた。

「えーっ!? それって……告白じゃない? 京都の夜景を見ながらって、シチュエーション最高じゃん! 香苗、ついに花沢くんと結ばれるの?」

「えっ、そ、そんな、いきなり言われても困るし……! てか、告白されるなんて、まだ確定じゃないし……!」

 私はは心臓が跳ね上がるのを感じた。ドギマギして、顔が熱くなる。友達から「好きだ」と言われることは、女の子として当然嬉しいし、花沢くんは本当にいい人、けれど、その高揚感のすぐ隣で、冷たい氷のような感情が静かに輪郭を現した。……私は今、花沢くんの告白にときめいている場合なの?

「……ごめん、さやか。実はまだ言ってないことがあって」

 先生のことが好きだなんて言ったらどう思うんだろうか、止められるのかな、とりあえず推しができたみたいにいえばいいのかな

「えっと、聞いて。最近、すっごい推してる人がいてさ」

 香苗がわざと少し焦らして言うと、電話の向こうのさやかは「えっ、誰!? どんな人!?」と一気に前のめりになった。

「それがね、すごく色気があって……」

 香苗は、先生の少し憂いを帯びた瞳や、準備室でふと見せる低い声、大人の余裕を感じさせる所作を思い浮かべながら言葉を紡ぐ。

「大人っぽくて、でもたまにすごく優しいの。……それだけじゃなくて、こう、男気があるっていうか、頼りがいが半端ないっていうか……」

 香苗が先生の魅力を一つずつ並べるたびに、さやかは「えー! 何それ、超素敵じゃん!」と興奮気味に声を弾ませた。

「わかる! それ絶対モテるやつだよ。そんな男性に優しくされたら、そりゃイチコロだよ! うらやまー」

 さやかからの共感。それは、香苗にとって何よりの特効薬だった。先生のことが「いけないこと」ではなく、「最高に素敵な恋」であると、親友のお墨付きをもらえたような気分になる。

「でしょ? ……なんか、一緒にいるだけで心臓がうるさくて、ずっと触れていたいって思っちゃうの」

「うわ〜、青春だねぇ! で、誰よ?そんな素敵な人が身近にいるだなんて」

「…先生なの、学校の」

「あー先生か!わかるよ、うちも推してる先生いるもん、いいよねえ、恋とは違うけどさ」

 だめだ、言わなくちゃ、本当のこと、言わないといけない

「……本当は私、その先生のこと推しとかじゃなくて、……もっと、怖いくらいにおかしくなってるの」

 さやかは電話の向こうで、初めて真剣な声を出した。「……どういうこと?」

「優しさに、誠実さに、触れるたびに私の心は先生を求めて仕方がないの、あとふとした瞬間に、あの時の感覚がフラッシュバックしてくるの」

「あの時の?」

 さやかがなんのことかわからずに聞き返すと、香苗は震える手で、自分の腰に触れた。あの日の、あの忘れられない出来事。先生の大きな手が、肌を伝い、腰を強く引き寄せた時の熱。

「先生に触れられた時、私……腰が溶けるかと思ったの。あんなふうに、誰かに触れられたことなんてなかったし、あんなふうに『もっと触れてほしい』なんて、自分から強く願ったこともなかった」

 香苗は自分の声の震えに驚いた。今まで「いい子」として生きてきた自分が、こんなにも生々しい欲求を言葉にしていることが、自分でも信じられなかった。

「……これって、ただの恋なのかな。もっと、先生の泥みたいな闇の中に、私の体ごと沈められたいっていうか……。今まで一度も感じたことのなかった、猛烈な『欲』みたいなものを、私、先生に対してだけ感じちゃってるの」

 電話の向こうで、さやかは絶句しているようだった。

「かなってばあんた、そんなこと思ってるの…?」

「自分でもびっくりするよ。花沢くんが優しくしてくれるたびに、私は自分の体が先生のことしか求めてないことに気づかされて、惨めになるの。既婚者なのに、先生には奥さんがいるのに……それでも、私のこの体は、先生の指先の温度だけを覚えてる」

 さやかは少し沈黙した後、ため息混じりに言った。

「……ねえ、香苗。 既婚者だったら、最初から『失恋する運命』だよ。どんなに愛しても、どんなに触れてほしくても、香苗がその人の一番になれることは一生ないんだよ」

 香苗はぐっと言葉に詰まる。それは、自分で何度も何度も心の中で反芻してきた「呪い」の言葉だった。

「傷つくだけだよ。いつか先生の家庭が……とか考えたら、今の香苗がどれだけ消耗するか、私には想像もつかない」

 さやかは、少しだけ声を和らげて、でも確信を持って言った。

「……ねえ、花沢くんでよくない? あんなに誠実で、香苗のこと見ててくれて、ずっと自覚してなかったけどあいつ小学生からかなのことすきだったよ、…花沢くんといたほうが、絶対に幸せになれるよ。そうやって、苦しいほうの道を選ぶ必要なんてないんじゃない?」

「……。」

 香苗は、暗闇の中で天井を仰いだ。さやかの言う通りだ。あまりにも正しくて、あまりにも論理的だ。幸せになりたいなら、先生を見るべきではない。

 でも、香苗の指先は、まだ先生の背中の感触を追いかけていた。

「……わかってるよ、そんなの」

 香苗は小さく呟く。

「傷つくことも、失恋する運命なことも、全部わかってる。……でも、わかってくれて安心感で包んだくれるのは先生なの」

 香苗は、自分の本心を口にして震えた。さやかは何も言えなかったと同時に香苗を心配して仕方がなかった。






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