第33章 先生のカコ ストーンの辿る先
今日は、同僚で親友の直哉がお昼過ぎに欲しいものがあるから付き合えということで駅で待ち合わせしていたのに、全く連絡がつかない。ので、仕方なくあいつの家に向かっている。
「おいおい、直哉、今何時だと思ってたんだ?」
「…うるせーな、休みなんだからいいだろ?なんでいるんだよひろ」
まだ寝ているときた、なんてやつだ。そして足の踏み場がないほどこいつの部屋は汚い。
「ったく、お前が買いたいものがあるから付き合えたったんだろーが」
「いってーな、何も殴ることねーだろ」
「後10分で支度しねーと俺帰るからな」
「…わかった、わかった、ちょっと待ってくれよ」
本当にこいつはだらしがない。この部屋を生徒に見せられるのかっつー話だ。
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俺たちは家の近くのショッピングモールに行くことになった。大事な買い物だっていうからついてきたのに結局お酒の大量買いに付き合えとのことだった。
「いいだろ?お前だって俺の家の酒のむんだからよ」
「わかった、わかった」
お酒を買った後しばらく歩いていると、綺麗な宝石がたくさん売っているお店があった。
「…あの赤い宝石さ、お前がいつも持ってる石みたいなのに似てないか?」
「ん、確かにな、似てるかもな」
俺はいつもポケットに赤いストーンを入れている。これは常に持ち歩いている大切なものだ。それは昔、彼女と出会ってから、あいつは一度だけ、自分のルーツを辿ろうとしたことがあったんだ。……俺が、あいつを連れ出したかったからだよ。あいつの過去なんて全部消して、俺たちだけの場所へ逃げたかったから。
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そうして辿り着いたあいつの出生は……あまりにも皮肉だった。あいつの父親は地方では知らない人なんていない名家だった。そして、母親は普通の家庭で育った人だった。2人は恋に落ちたけど、身分の差で結婚が許されずに駆け落ちしていた。駆け落ち途中で父親が交通事故に巻き込まれて、絶望の淵にいた母親だったのだが、自殺することなんてできなかった。その時、俺の愛した女である美代を身籠っていたからだ。でもあいつの母親は愛した男との子供であるにも関わらず全てに対して絶望してあいつを育てるような状況下にいなかった。
そう、あいつは、そんな『全てを捨てた親の愛の結晶』として生まれた。
「見て、これ」
あいつは、古い革の袋から小さな石を取り出した。
「うちのお父さんとお母さんが駆け落ちした時に、唯一持ち出した家宝なの。嘘みたいな話だけど、この石には不思議な伝説があるんだって」
あいつは、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「息を吹きかけると、その人の心の色が出るの。……ねえ、本原くん、やってみて?」
俺は戸惑いながらも、あいつが差し出した石を恐る恐る口元に運んだ。あいつの顔を覗き込むと、彼女は目を輝かせて「早く!」と促す。
俺が石に息を吹きかけると、石は熱を帯びたように鈍い赤色に染まった。まるで、錆びついた鉄のような、あるいは澱んだ血のような、どす黒い赤。
「わあ……情熱的で、深い色だね」
あいつは何も疑わずに、その石を握りしめて微笑んだ。その笑顔があまりに眩しくて、なんだか切なかった 次に、あいつが自分の石に息を吹きかける。途端に、石は透き通るような薄いピンクと、瑞々しい若葉の黄緑色が溶け合うような、春の木漏れ日を閉じ込めたような色に変わった。
「……交換しよ」
あいつはそう言って、俺の手の中にあった赤い石と、自分の色の石を重ね合わせた。
「こうすると、ずっと一緒だって。駆け落ちした両親も、この石を信じて家を出たんだよ。ねえ、私たちもそうしよう? この石が砕けるまで、ずっと」
あいつの言葉は、まるで呪文みたいに俺の鼓動を支配した。彼女にとって、それは「二人の永遠」を願う純粋な祈りだった。
「大好きだよ、誰よりも」
そう言って静かに唇を合わせたあの雪の日の夜、本当は誰よりも心細くて繋がっていたかった人間だったんだなと俺は感じた。




