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第24章   闘いと大人の余裕


 俺はあの後さやかに頭を下げてあいつの連絡先を聞き出し、彼を呼び出した。

 人気のない公園、夕闇に包まれたブランコの前で、あいつはどこか冷めた、けれど強い意志を感じさせる瞳で待っていた。

「……何の用だよ。今俺に会ってどうすんだ」

「……お前に、聞きたいことがある」

 俺は身体を震わせながら、絞り出すように言った。

「あの日、お前、香苗を抱きしめてただろ。……付き合ってもねーのに、あいつに何したんだよ」

 すると、航平は鼻で笑うように短く息を吐き、一歩前に出た。

「付き合ってない? ……そんなこと、お前が一番よく分かってるだろ。お前こそ、付き合ってもいないマネージャーと、図書室でキスなんてしてたくせに」

「っ! それは、俺が寝てる間に……」

「言い訳にしか聞こえねーよ。事実、香苗はそれを見て傷ついて、泣いてた。……俺は、泣いてる香苗を放っておけなかった。だから抱きしめたんだ。俺は、本気だからな」

 航平の言葉には、迷いがなかった。俺が「幼馴染」という言葉に甘えて足踏みしている間に、彼はもう覚悟を決めていたのだ。

「香苗を傷つけることしかできないお前より、俺の方が、あいつに相応しい。……これ以上、あいつを悲しませるなら、俺が本気で奪うからな」

「…………っ!」

 俺は何も言い返せなかった。自分が知らない間に、誰よりも近かったはずの場所が、別の男に塗り替えられようとしている。「俺の方が相応しい」——その言葉が、鋭いナイフのように大雅の胸を抉った。

 航平が背を向けて去っていく中、俺は風が強く吹き始めた街角で、ただ立ち尽くすしかなかった。

 幼馴染という「特等席」を自ら捨ててしまった自分への嫌悪感が、冷たい風とともに全身に染み渡っていく。

(……くそっ、俺は、どうすれば……)

 行き場のない感情を足元のは石にありったけこめて蹴るとその石があるひとりの男性の足元にいった。

「……なんだ。青春の修羅場か?」

「えっ……!?」

俺が飛び上がるように振り返ると、そこにはコンビニの袋を提げた先生が立っていた。

「せ、先生……なんでここに」

「見て分かんだろ、夕飯の買い出しだよ。……運が悪かったな。お前らのデカい声、入り口まで丸聞こえだったぞ」

先生は適当なベンチに腰を下ろすと、袋から缶コーヒーを取り出して放り投げた。俺はそれを慌ててキャッチする。

「……全部、見てたんですか」

「いや、そこまではわからなかったよ、ただ誰か1人の女の子を取り合ってたのだけはわかったよ」

 先生は自分の分のコーヒーを啜り、フッと自嘲気味に笑った。その笑い方は、子供をあやすようなものではなく、一人の男として後輩の不甲斐なさを楽しんでいるような、そんな余裕に満ちていた。

「……情けねぇな。『奪う』なんて言われて、一言も言い返せねぇでやんの」

「……っ!先生に関係ねーだろ 」

 少しだけ声を落とし、諭すような、けれど重みのある口調で言葉を継いだ。

「関係ないな。……だがな、一つ教えてやるよ。女の子ってのはな、お前が思ってるよりずっと、強くて脆いもんなんだ。……そして何より、待ってはくれないぞ、今この時間を大切にしろよな」

 先生はひらひらと手を振ると、軽やかな足取りで自分の車へと戻って行った。バックミラー越しに、まだ公園で立ち尽くしている1人の男を映しながら、本原はふと独り言を漏らす。

「……ったく。若いってのは、面倒くせーな」




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