第18章 男同士の語り合い
「……あ、マジで? お前ら、そこまで行ったの」
塾近くのカフェ。山下がどうしても話したいことがあると言って待ち合わせをした。山下は少し照れくさそうに頭を掻きながら、彼女のさやかとの「進展」を嬉しそうに語っている。
「いやさ、俺も最初は緊張したんだけど……勢いって大事だな。花沢も、さっさと誰か作れよ」
彼女を作っている周りがそういうことをしているのを聞いてたし、山下だっていつからするって思っていたけど、実際よく知っている2人のを聞くのは何とも言えない。
「……別に、興味ねーよ」
花沢は冷めたコーヒーのカップに視線を落とした。
興味がないふりをしていても、俺だって男だ。そういうものに欲がないわけではない。自分からそういう本を買うことはあまりないが、山下が色々オススメしてくるので最近見てしまう。
(……俺だって、あいつに……)
下腹部に溜まる熱を必死に押し殺しながら、俺は無機質な表情を保つのに必死だった。
「そんなこと言って、お前実はむっつりだもんなぁ」
山下がニヤニヤしながら身を乗り出してくる。
「なあ花沢。想像してみろよ。もし佐倉がさ、上目遣いで『ねえ、花沢くん……』って迫ってきたらどうする? お前、絶対耐えらんねーだろ」
「……っ」
山下の言葉に、一瞬だけ思考のガードが緩んだ。その瞬間、花沢の頬が、耳の付け根までじわりと熱くなった。
「ほら! 赤くなった! やっぱりお前佐倉のこと——」
「……っ、ちげーよ!」
山下のからかう声が、急に遠くなる。代わりに脳裏に浮かんだのは、あいつだ。俺ははっきりと見たんだ。あいつと佐倉が抱き合っているところを。弱音を吐くのは、頼ってくれているのは俺だと信じていたのに、
「——あいつの話はよしてくれよ!!」
怒鳴り声がカフェの中に響き渡った。周りの客が一斉にこちらを向く。山下も、見たこともない親友の形相に言葉を失っている。
「……え、花沢? 悪い、そこまで怒るなんて……」
「……もういい。帰る」
カバンを掴むと、山下の制止も聞かずに席を立った。山下が悪いわけじゃない。けど、あいつのことを考えていると俺の中のいろんな感情がおかしくなる。
逃げるように店を出ると、冷たい夕方の風が顔を叩く。
(違う。こんな取り乱すのは俺じゃないはずだ)
足早に歩きながら、俺は妹の入院している病院に向かった。
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「あれお兄ちゃんきてくれたんだ、ありがとう!」
「おう、体調はどうだ?なんかかってきてほしいのとかあったら言えよ?」
「うん、今は平気。またいっくんと会ってたの?」
「ああ、あいつはマジ変わらねーよな、」
「そっかあ、えてかいっくんって今彼女いるってほんと?」
いっくんとは山下のことだ。昔から家族ぐるみで仲がいい。
「ん、あーあいつの弟からきいたのか、ベタ惚れしている彼女がいるぞ、」
そして、俺の妹とあいつの弟は同級生でありすごく仲がいいため知らぬ間に情報が回っていたりする。
「わあいいね、お兄ちゃんは彼女ほしくないの?」
「今はいんだよ、それよりお前が早く良くなる方がいいしな」
「…そっか、でもお兄ちゃんってむっつりなんでしょ?」
「だ、誰がそんなこと言ったんだよ!」
「幸助くんがいってた、お兄ちゃんが言ってたって。」
「あのやろう、ぶっ潰す、」
「ふふ、おかしいの」
「とりあえず元気そうだな、帰るな、またすぐくるからな、」
「うん、ありがと、お兄ちゃん」
俺は妹の笑顔が守れればそれでいいんだ。恋なんてしている場合じゃないんだ。あいつのことなんて忘れよう。




