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第15章   努力と透明な壁

 深夜二時過ぎ、机の上の小さなライトが、真っ白なノートを照らし出している。カチ、カチと時計の音だけが響く部屋で、花沢は一心不乱にペンを走らせていた。


「螢一ってばまだ起きてるの?」


 ドアが少しだけ開き、母親が心配そうに顔を覗かせた。


「あんまり無理しちゃダメよ。体壊したら元も子もないわ」


「……大丈夫だよ、母さん。すぐ寝るから」


 割と限界に来ている。けど、入院中の妹のためにもここは踏ん張り時だ。あいつを苦しめている病を俺が救わなければいけない。最近なぜかわからないがむかつく。あの男のことが気になってなのか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ――翌朝、通学電車。


 立っているのもやっとの満員電車。花沢は吊り革に掴まりながら、英単語帳を開いていた。ふと、隣から聞き覚えのある声が聞こえる。


「あ……花沢くん」


「……佐倉、おはよう」


 そこにいたのは、少し眠そうに目を擦る香苗だった。話そうと思ったが、連日の無理が祟ったのか、電車の揺れに合わせて急激な睡魔が花沢を襲う。


 (……ちょっとだけ……)


 気づいた時には、花沢の頭は香苗の肩にストンと乗っていた。彼の規則正しい寝息が香苗の首筋にかかる。


「えっ……ちょっ、花沢くん!?」


 香苗の心臓が、耳元で警鐘を鳴らすように激しく打ち鳴らされる。眼鏡越しでもわかる、花沢の整った横顔。爆発しそうな心臓を必死に押さえながら、香苗は彼を起こすこともできず、目的地まで石のように固まっていた。その後急停止ボタンが押されやっと起きた。


「ん、悪い、そのわざとじゃねえんだ。」


「うん、わかってるわかってる。」


 ぎこちない雰囲気のまま2人で学校へ向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ――放課後、図書室。


 部活を終えた香苗が友達と図書室へ向かうと、そこには一人で勉強に没頭する花沢の姿があった。眼鏡をかけて眉間に皺を寄せるその姿に、図書室中の女子たちが「知的な姿がやばい」と静かに熱狂している。


「うわーどうしよう!試験範囲多すぎるよ」


「香苗ってばうるさい、とりあえず化学から終わらせよ」


 そうしてそのあとはみんなで協力して勉強していた時に、彼の机に1人の女の子が来でどうやら一緒に勉強している。


「ねえね香苗聞いてる?おーい!」


「えな、なに」


「あんた花沢くんみてたんでしょ?まあわかるよ?かっこいいし」


「ち、ちがうよ。ただ、(あの女の子の方が気になって…)」


「あれは、噂の美少女マネージャーか、あの2人が並ぶと絵になるね、あのマネージャー花沢くんのこと好きらしいし、花沢くんもその気あるらしいよ?」


「え、、」


 バスケ部のマネージャーの人と仲良いっていうかよく話すのは知ってたけど、そうなの?


「あっいけない、もう時間だ。うちらバイトあるから帰るけど、香苗は帰る?」


「いや、残る!」


「おっけー!バイバイ!」


 みんなと解散してからも花沢のことを気にしつつも勉強していると花沢はやがて寝てしまった。


 (……あ、寝ちゃった。時間になったら、私が起こしてあげよっかな、もういつのまにかさっきの女の子いないみたいだし)


 香苗がそんなことを考えていた、その時。


「……花沢くん、起きて?」


 バスケ部のマネージャーであろう女の子が戻ってきて花沢くんの肩を優しく揺らした。なんて綺麗で長い髪なんだろう、そしてなんて可愛らしい顔立ち、なんて思っていたその時だった。彼女は周囲を一度だけ警戒するように見渡すと、眠り続ける花沢の顔をじっと見つめ、ゆっくりと顔を近づけていく。


 (……え?)


 香苗の足が止まる。彼女は吸い込まれるようにして花沢の頬、いや、唇にそっと自分の唇を重ねた。ほんの一瞬。羽が触れるような、静かで、けれど決定的なキス。


 ドクン、と香苗の心臓が嫌な音を立てた。


「――っ」


 声にならない悲鳴が漏れそうになり、香苗は咄嗟に口を押さえて近くの本棚の影に隠れた。


 心臓の音がうるさすぎて、図書室全体に響いているんじゃないかと錯覚する。


 見たくない。これ以上、ここにいたくない。香苗は逃げるように、図書室の重い扉をそっと開けて走り出した。


「…彼女いたんだ」


 別にそこまで期待してたわけじゃない、あんなすごい人が私を好きだなんて、でもどこかで信じてた、私のことすきなのかもって、でも違ったんだね

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