第14章 航平の想い
「航平くーん、今日放課後ひま? 買い物付き合ってよー」
「あ、ずるい! 私も行く。航平くんが選んでくれた服なら絶対可愛くなれるもん」
教室の自分の席。休み時間のたびに、色とりどりのスカートが俺を囲む。女子たちの視線は、俺の「顔」や「身長」、あるいは「航平と歩いている自分」というステータスにしか向いていない。
「ごめん、今日は予定あるわ」
「えー、冷たーい! 航平くんってば、いつも断らない?」
「でも昔はかなり遊んでたって聞いたけどなあ?」
(……昔はな)
父親が死んで、母親がずっと俺に執着するようになった、そして父親そっくりの俺の顔を母親はいつも嬉しそうに眺めていた。中身なんでどうでもいい、この顔さえあればいい、そんな風にいつも感じていた。だから顔だけの人間だと、そう自嘲して、誰にでもヘラヘラと笑いかけていたあの日。
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塾の階段の踊り場で、急に呼び止められた。
『航平ってばあんた、そんなに女好きで、いつか絶対に痛い目見るよ』
俺はまた「顔」の話かと思って、「はいはい、顔がいいから困っちゃうよね」と適当に受け流そうとした。
でも、彼女の言葉はそこでは終わらなかった。
『……てか、もっと自分のこと、大切にしなよ。そんな風に誰にでもいい顔して、自分を安売りしてさ。私は、そんなの嫌だから』
「……安売り? 俺が?」
思わず聞き返した俺に、香苗は真っ直ぐに、射抜くような瞳で続けた。
『そうだよ。あんた、普通に根はいいやつだし、普通に真面目だし、友達思いじゃん。この前だって友達のこと庇ってたし、そういうところ、見てる人はちゃんと知ってるから。……だから、顔だけで判断するような奴らに、あんたの本当の価値を浪費させないでよ』
――世界が、一瞬で色を変えた。
(……うわ、なんだよ。これ)
その時、俺の心拍数は限界を超えた。本気で好きになった。あの後もずっと真剣に俺の話を聞いてくれたことも、さやかとふざけて笑いあってるところも全てを愛おしく感じて仕方なかった。
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――現在。
目の前で、取り巻きの女子たちがキャッキャと騒いでいる。でも、俺の頭の中は香苗のことでいっぱいだった。
(好きで好きで、どうしようもねえんだよ。……それなのに)
香苗。お前が俺にくれた「自分を大切にしろ」って言葉を、今、俺はあいつへの嫉妬でボロボロに汚そうとしている。
「……悪い、俺心に決めた人いるから」
女子たちを突き放して、俺は逃げるように教室を出た。あいつにだけは、俺の「本当」を見てほしかった。
あいつにだけは、俺を選んでほしかった。歪んだ独占欲が、胸の奥でドロリと暴れだす。香苗があいつを好きかは定かじゃない。けど、あいつが香苗を好きなのは確実だ。花沢、お前はあいつじゃなきゃダメじゃないだろ?
俺はあいつを手に入れるためならどんな汚い手だって使う。俺の手だけ触れて俺の唇にだけ触れて欲しい。




