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第12章   お互いの自覚

 昨夜の電話が嘘だったかのように、午後の教室は退屈な熱気に包まれていた。そしてまた放課後、いつもの四人で集まることになったけれど、私は朝からずっと、花沢くんの顔をまともに見られずにいた。


「……ねえ、さやか。ちょっと、いい?」


「あの、さ……。……私、もしかすると……花沢くんのこと、好きかも」


 自分でも驚くほど、素直に口から出た。さやかは一瞬目を見開いたけれど、すぐにニヤリと悪戯っぽく笑った。


「え!あっていうか、やっと認めたんだ?」


「……いやだってね、なんか、うん」


「なんの話ししてるのー?」


 不意に前を塞ぐように現れたのは、隣の進学校に通う、中学時代の塾友・航平だった。

 端正な顔立ちに、着崩した制服。彼は昔から女子の間で有名だった。そう、とても女好きで。


「航平くん、久しぶり。これからデートですか?」


「いや、今日はオフだよ、香苗も俺とデートする?ずっと待ってるんだからさ」


 航平は、誰にでもこういうことをいう。これに騙された女の子が何人いたことか。


「あのねえみんながみんなあんたに騙されないんだからね、冗談はよしてよ、ねえさやか?」


「そうそう、までも航平くんは香苗のこと割と本気だったわよね」


「ちょ、ちょっと……何言ってるのよ」


 航平が視線を後ろへ向ける。さやかが花沢くんが来ていることに気づき山下くんが苦笑いしている。そして、花沢くんは一歩も動かず、ポケットに手を入れたまま、冷え切ったナイフのような視線を航平に突き刺していた。


「……行くぞ」


 短く、氷のような声。花沢くんが私の肩を引き寄せるでもなく、ただ「命令」に近いトーンでそう言った。


「え、そんな急がなくてもいいじゃん。香苗ちゃん、連絡先変わってないよね? 今夜送るからさ、相談乗ってよ」


 航平が私の手首に軽く触れようと、一歩踏み出した。その時、花沢くんが、私の前に割り込むようにして航平の腕を叩き落とした。


「……触んな。こいつは今、勉強で忙しいんだよ」


「おっと、怖いね。……君、ただの友達だろ? そんなにムキにならなくても」


 航平が余裕たっぷりに肩をすくめると、花沢くんの周囲の空気が一気に凍りついた。


 花沢くんの拳が、微かに震えている。それは怒りというより、自分の中に湧き上がったどす黒い感情を、力ずくで抑え込もうとしている震えに見えた。


「……佐倉、来い」


 花沢くんが私の手首を掴んだ。昨夜、電話で「味方だ」と言ってくれた時の熱さとは違う、痛いほどの執着がこもった強さ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

結局、カフェについても、四人のテーブルは沈黙に支配された。


さやかたちが気を遣って会話を回そうとしても、花沢くんは一度もノートを開かず、ただひたすらに、私がスマホを気にしていないか、航平のいた方角を振り返らないかを、監視するように見つめていた。


(……そんなに、怖い顔しないでよ……)


 胸が苦しいのに、どこか満たされていくような、歪な感覚。もしかして嫉妬してくれてるのかななんて、さすがにないと思うけど、都合よく解釈してもいいのかな


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