7話 化物と一般人の契約
屋台で串焼きを買って、食べ歩きをしながら宿を探すが、食べ終わっても見つからない。
土地勘がなければ、この町の地図も持っていない。
そして、宿が見つかったと思えば、満室か予算オーバー。
前の宿には戻りたくないので、根気強く探していると、陽が沈む頃にやっと宿が見つかった。
疲れた体をベッドに預けて、念を送る。
(おーい、聞こえるか?)
(うひゃっ!)
(……いきなり話しかけないでよ。ビックリしちゃうから)
(こっちから外の様子見えないんだけど……要件は済んだの?)
(ああ。そっちの様子はどうだ?)
(こっちは広くて快適だよ。朝焼けが綺麗で静かだし、綺麗なお城?図書館?もあるし!)
そうか。こっちが夕方だと、向こうは早朝か。
(でも、のんびりしてる場合じゃないんだよね……本合格しないと、居させてもらえないし)
憂鬱そうな溜息を吐く悪霊ちゃん。
(あ〜緊張してきた……!)
(合格不合格ってどうやって決めるの?試験?内容は聞いていいの?)
(それに関してなんだが、気が変わった。もう本合格でいい)
(……うえっ!?なんで??)
(めっちゃラッキーで嬉しいけど……)
(理由を知りたければ質問に答えなさい)
(はい!)と、元気な返事をする悪霊ちゃん。
(学校のテストの点数は?)
(大体いつも全教科平均くらい……?かな?うろ覚えだけど)
(どんな本を読む?)
(どんな本って言われても……何でも読むよ。特別このジャンルの本を読むとか、ないかも)
(どんなテレビ番組を見る?)
(家族で食事をする時にしか見ないからそんなに詳しくないけど、その時にやってるテレビ番組なら何でも)
(スポーツや音楽は?)
(学校でやるものはどれもある程度できたけど、特別得意なものはないかなぁ……)
(ゲームは?)
(どのジャンルもそれなりって感じかな?ボードゲームもテレビゲームも普通にやるよ)
(料理、洗濯、掃除)
(生活に困らないくらいには。家の手伝いもしてたし)
(こんな何の変哲もない質問で何がわかるの?)
本当に何も理解していないようなトーンで質問を返される。
(君の異常性)
(え?どういうこと?)
(何でも平均的に成果を出せる能力はおかしいが、それよりも特定の何かに興味関心がないのがおかしい)
(……マジ?)
(マジ。興味関心や趣味嗜好は人によって異なるのが普通だから。何でも興味があるとか、何でも好きとか、そっちの方が圧倒的に少数派だ)
(あ〜、なるほど。そういうことだったんだ)
(ん?)
(みんな普通の人生が1番だって言うからそれに合わせて生きてきたけど、普通の人が何が好きなのか分からなかったから)
本来の人間性が抑圧されていることに全く気付かず、普通だと思っていることを自然に、何不自由なくこなしてしまう。
元から人間性なんて存在しないとでも言いたいのか。
その異常性に思わず笑ってしまった。
(やっぱり、おかしいな)
(え〜?そんなことないと思うんだけどな〜)
本当に無自覚だから面白い。
(それに、あらゆる面で人生に既視感があるというのも変だ)
現代日本人の大半が知っている典型的な物語をなぞる人生。
(幽霊になるまでの話だが、17年分の人生だぞ?想定外の事件や不幸、驚くような幸運が少なからずあるのが、本当の普通なんだよ)
(そう……なの?……ですねぇ)
納得しているのか、してないのか。微妙な反応をする。
(……っていうか、私の記憶、読まれてます……?)
(そりゃ……俺の脳に居候してるからなぁ)
(いやぁぁぁ!!)
(なんてこったい……乙女の全てが)
(恥ずかしい……消えたい……)
消えたい、とまで言わせてしまうとは。
正直に言ったことに後悔はないが、気まずい雰囲気になってしまった。
(記憶が流れ込んでくる途中で察して、プライベートな記憶は見ないようにしたから)
(それに、これから先、君の記憶に触らないと約束する)
相手の事を知れば知るほど良いと思いがちだが、そうとも限らない。
人間関係において、その全てを知ってしまうことは、その関係の継続を無意味なものにする。
秘密によって人が分離されることで人間関係が豊かになると、読んだ本で知ったから。
(記憶を見たから試験無しで合格になったというのも、一応言っておく)
(そっかぁ……う〜ん)
(記憶を見られた事は忘れよう!……よし!忘れた!)
無理矢理納得しようとしているのが、声だけでも伝わってくる。
(話を戻すと……変だから私は合格したの?)
(端的に言うとそうだな)
(海斗くんは変なのが好きなの?)
(変な人の方が面白いだろ?)
(ふ〜ん?)と、明らかに理解できてなさそうな声で相槌を打つ。
悪霊ちゃんは例外だが、異常な人間であり続けるのはかなり難しい。
何故なら、所属する集団や社会に合わせて行動する方が楽に生きることができるからだ。
安定した社会を作る為に同化はある程度必要だが、それは人間の才能や能力、個性を潰すことになる。
社会の中で巧く立ち回って”天才”と周りから呼ばれるような人でも、結局人間の理解できる範疇でしかない。
だからこそ、社会が忌避するほど突出した能力や個性を持つ者に会って、話をして、触れ合って、魂が震えるような体験をしたい。
そんな経験を積み重ねることで、いつ死んでもいいと思えるような満足感が得られると信じている。
その為にも、必要であれば、そんな人々が潰されないように支援をしたい。
しかし、異常性のベクトルによっては俺と対立する場合もあるだろう。ジジイはその良い例だ。
拷問によって受けた苦痛は計り知れない。今でも体の様々な部位が、不意にあの時の痛みを思い出す。
ただ、自分の欲望や目的の為に手段を選ばないところは一定評価できるし、俺自身その知識に助けられている。
根本的に、俺はジジイと同じだ。知識欲というエンジンに突き動かされて生きているだけ。
違う部分があるとするなら、知識欲の対象だけだ。
俺は、人間の可能性を知りたい。
(お〜い!起きてる?)
(ん?)
(あ、起きてた)
(悪い、少し考え込んでた)
(これからどうするの?)
(直接会って話し合おう)
(どうやって?)
(俺の特殊能力を使う。ソウルアルスってのがあって、俺が寝ている間はそっちに行ける)
(そうなんだ。それじゃ、待ってるから!)
(そういえば実際に人と対面するなんて久しぶりだなぁ……なんか緊張してきた……)って聞こえてるぞ。
後で思考を漏らさない方法を教えるか。
とか考えながら、俺の世界にアクセスできる状態にして就寝。
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で、いつもの草原。
起き上がって、周りを見渡すと、こちらに向かって手を振る女子が見えた。
手を振り返すと、こっちに小走りで向かってきた。
「いや〜、本当にこっちに来れるなんて!」
「久々に人に会えてテンション上がるよ〜!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、俺の身体を上から下までぐるりと一周観察する。
興奮と緊張で少しおかしくなってるな。
「海斗くん……普通だね!服のセンスも顔も!私は好きだけど!」
服に関しては奇を衒う意味がないし、この場所なら服装も自由に変更できるので、地球でずっと着ていた服を着ている。
「そっちも普通の顔に、普通の服だ。嫌いじゃないが」
「というか、白い服か……地球で白色の服ばかり着ていたよな。余計に幽霊っぽく見える」
「幽霊っぽいって……まぁ、そうだけど、なんか好きなんだよね白色」
「対面式も終わった事だし、やるべき事を終わらせるか」
「やるべき事って……?」
「プライバシーを守る約束をしたから、君の家を建てようと思って」
「必要だろ?」
「もちろん!必須だよ!土下座しても欲しいよ!」
「だと思ったから最優先で作ろう」
「そんなすぐに作れるの?」
「ここは魔素さえあればどうにでもなる世界だからな。その魔素は君の余剰分を使えばいいし、早速やるぞ」
「お願いします!」
俺の記憶の中のイメージ図を魔素で形にする。魔素が建材に変わり、建材が指定の場所まで高速で飛んでいく。
「お〜!すごい!」
3分も経たずに家を作り出すことができた。
「基本は君の住んでいた家だけど、どうだ?」
「凄い……凄すぎるよ海斗くん!家の中見てもいい!?」
そう言いながら、身体はもう家の中に入っている。
「玄関!リビング!キッチン!お風呂!トイレ!私の部屋!完璧じゃん!」
ドタドタと床材を鳴らして家中を駆け回る。
「君の弟や両親の部屋は書斎にしてあるから」
「おお〜!沢山あるけど何の本?」
「人生」
「え……」
「君の記憶を分類して本に入れておいたから」
「家を完全に俺の知覚から遮断することで、その中をプライベート空間にしてる」
「なるほど!」
書斎の中で本の背表紙を見ていると、1冊の本が目に入った。
「面白い本を発見したんで、来てくれ」
「ん〜?な〜に〜?」
呑気に本の背表紙を眺めている。
「君がこの世界に拉致されてから領主の娘に取り憑いた経緯。知りたいか?」
「うん?まぁ、ちょっと気になるかな」
その軽率な発言をした後に、
「教えてやろう」
「……なんか猛烈に嫌な予感というか……パンドラの箱に手を掛けているような……」
自分が何を了承したのか理解したらしい。
「ちょっ……!」
本棚の奥に置いてある本を取り出して、その本を開くと、
「ぎゃぁぁぁあああ!!!!」
一瞬で閉じる。
悪霊ちゃんの記憶が流れてくる時に体験したが、そういう反応になるよな。
「はぁ……はぁ……何今の……?」
「本を開くと、その時の記憶と感覚を思い出せるようになっている」
「だから、解離していたトラウマも、本を開けば好きな時に呼び起こせる」
「この世界の娯楽はそう多くないからな。暇な時にでもこれで遊んでくれ」
「もう二度と開かないから!」
「はっはっは」とわざとらしく笑ってみせた。
他愛もない会話をしながら家を出て、今度は図書館をご案内。
「やっぱり大きいねぇ!このお城!」
「先にこの図書館の使い方を教えるから」
「はーい!」
という事で、図書館の部屋に到着。
手の届かない場所の本を引き寄せるやり方を教えたり、思考を漏らさない方法を教えたりした。
おまけにこの異世界のことや、魔法のことも。
「……まぁ、こんなもんだな。知りたい事があったら念話で質問してくれ」
「了解!」
「それじゃ、自由時間にするか。好きな本を読みな。俺も読む」
「はーい」
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半日ほど経ったか。
「どうだ?面白い本はあったか?」
「うん!全部面白かったよ!」
全部……ねぇ。
「読み終わったなら図書館から一旦出ないか?」
「あ〜、そうだね。ちょっと外の空気吸いたいかも」
図書館からお城の扉に向かう途中、
「なんかお城の中央広場、めっちゃ輝いてない!?」
と、興奮していた。
「夜になると月光が天井の窓から差し込むんだ」
「ねぇねぇ!月、眺めていい?」
「じゃあ、広場で話でもするか」
机に座ると、悪霊ちゃんは首を上に傾けてアホ面で月に魅入っていた。
「月がめっちゃ大きい!!目が吸い込まれそう……!」
今日も満月は相変わらずの輝きだ。
暫く月を堪能した後、彼女の方から質問してきた。
「海斗くんさ、この図書館?お城?のことなんて呼んでるの?」
「図書館としか呼んでない。今の所困ってないしな」
「名前あった方が便利じゃない?」
「まぁ、そうだな。じゃあ、名前は夢現図書館で」
「決めるの早いよ!アドバイスとかしたかったのに!」
「元からこの名前にする気だったし、決心が固ければ相談は無意味だ」
「むげん図書館ね」
「言っておくけど、無限じゃなくて夢現な」
「はいはい……」
「ところで、外の世界を知りたいと思ったことはないか?」
「え?そりゃあ……」
「はいこれ」
「これは……タブレット端末とイヤホン?」
「タブレットで外の映像が流れて、イヤホンで聴覚を共有できるようにしておいたから」
「お〜科学技術の結晶だ……」
「魔法と科学技術の結晶だな」
悪霊ちゃんはタブレットとイヤホンを見つめて呆然としている。
「言いたい事あるなら今のうちに言っておきな」
「いや、言いたい事というか……」
「とても嬉しいんだけど、なんか、色々と貰っちゃって申し訳ないような……」
「先行投資だから気にすんな。今後は働いてもらうし」
「えっ、働くって何をすればいいの……?」
「常にやってもらうのは知識を増やすことだな。夢現図書館を使ってどんどん賢くなってくれ」
「そして、当然俺の話し相手になってもらうから。基本的には念話に出るように」
「全然OK!本を読むのも人と話すのも苦手じゃないし!」
まぁ、そうだろうね。
「不定期の仕事は、知識の読み上げだ。俺が現実世界で何か知識を引き出したい時に、代わりにお前が本を開いて音読してくれ」
「はーい」
「仕事を真面目にやれば給料として魔素を渡すから。その魔素の範囲で好きなものを作れるぞ」
「おお!ありがたい!」
「んじゃ、労働は読書と会話。対価は魔素と新しい身体の捜索。これで契約するか?」
「本望です!宜しくお願いします!」
俺の手を取ってブンブンと振り回す。
「これから宜しくな、桜ちゃん」
月光が広場を照らす夢現図書館。ここに佐藤桜との契約が完了した。




