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宇宙人が地球に来た理由が、ラーメンを食べるためだった  作者: レモンティー


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第七話 冷麺を食べた皇帝が、地球を丸ごと冷やそうとした

翌日の昼。

『らーめん銀次』の前には、宇宙船がびっしり停泊していた。

「暑い……」

美咲が額の汗を拭く。

「十月なのに、何でこんなに暑いんでしょう」

健太は空を見上げた。

「昨日から観光船が二千隻も上にいる。排熱のせいじゃないか?」

クックが計測した。

『店の周辺は、宇宙船の排熱によって通常より六度高温です』

「今すぐ移動させろ!迷惑な客だな!」

ガルが通信すると、宇宙船は少しずつ高度を上げた。


そのとき、店の扉が開いた。

「健太よ!」

銀河帝国皇帝だった。

隣にはゼルガード。

二人とも汗をかいている。

「暑い!」

「地球の気候は過酷だ!」

健太は二人を見た。

「宇宙船をどかせば少しは涼しくなると思いますけど」

皇帝は聞こえなかったふりをした。


皇帝はすでに汗だくだった。

「健太よ。何か冷たいものはないか」

「ありますよ。今日は冷麺にしましょう」

健太は弾力のある冷麺を茹で、冷水でしっかり締めた。

冷やした牛骨ベースのスープに、酢で爽やかな酸味を加える。

キュウリ、薄切りの肉、ゆで卵、キムチ、梨。

氷を少し浮かべた丼を、皇帝とゼルガードの前に置いた。

「お待ちどうさま」

皇帝は湯気のない丼を見て眉をひそめた。

「……冷めているぞ」

「冷やしたんです」

「料理とは、温かいものではないのか!?」

「冷たい料理だってありますよ。冷ややっことか、そうめんとか、ざるそばとか」

「料理を、わざと?」

「そうです。食べてみてください」

皇帝は恐る恐るすすった。

ズズッ。

「……冷たい!」

「冷麺ですから」

「それなのに、うまい!」

ゼルガードも箸を進めた。

「この弾力、この酸味……! 暑さを忘れるな」

「梨の甘みも合うでしょう?」

「果物が麺料理に!」

二人は顔を見合わせ、笑いながら食べ進めた。

皇帝がキムチを食べた。

「……辛い!」

「それはキムチです」

「冷たい! 甘い! 辛い! 酸っぱい!」

皇帝は丼を見つめた。

「一杯の中で、四つの勢力が共存している……!」


そのとき、皇帝が何かを思いついた顔をした。

「健太よ。冷たさが人を幸せにするなら、地球全体を冷やせばよいのでは?」

健太は箸を止めた。

「……は?」

「我が帝国には惑星環境制御装置がある。地球の気温を下げてやろう!」

「余計なことしなくていいです!」

クックが警告音を鳴らした。

『惑星環境制御は生態系に影響します。地球側の許可と対象範囲の確認が必要です』

皇帝は一瞬、警告表示に目を落とした。

「地球側の許可が必要……か。だが、皆が暑さに困っているのだろう? 少し涼しくするだけなら喜ばれるはずだ」

「その『少し』を誰が決めるんですか!」

「ほんの試験だ!」

「警告を聞け!」

皇帝が通信機に命令した。

『地球冷却計画、試験起動』

「試験起動するな!」

空に青い光が走った。

店の温度計が、三十二度から二十八度へ下がる。

「……お、涼しい」

美咲がほっとした直後、二十四度、二十度、十六度。

「ちょっと待て、下がりすぎだ!」

窓ガラスが白く曇った。

店先ののぼりが凍りつく。

プルルがぷるぷる震えた。

「ぼ、僕、固まっちゃいます!」

ポンッ。

寒さに驚いて二人に分裂した。

「増えても寒さは変わらねえよ!」

クックが警報を鳴らす。

『冷却装置の制御対象が、店の周辺ではなく地球全域に設定されています』

「何でそんな設定になってるんだ!?」

『皇帝陛下が「地球全体」と命令されたためです』

「言葉どおりに実行するな!」

店のテレビには、各地からの速報が流れ始めた。

『北海道で季節外れの降雪』『沖縄の海水温が急低下』

続いて、南の島の小学校が映った。

半袖で登校した子どもたちが、教室の窓を閉めようと必死になっている。

『先生、息が白いよ!』

教員は児童を廊下の奥へ誘導しながら、震える手で毛布を配っていた。

画面が切り替わる。港では漁師が凍り始めた甲板を踏みしめ、出港を取りやめている。

健太の顔から笑いが消えた。

「……客の冗談で済む話じゃないぞ、陛下」

皇帝は初めて、冷麺の丼から目を離した。

美咲がスマートフォンを握りしめる。

「健太さん、母から『洗濯物が凍った』って連絡が……!」

「笑えないぞ。陛下、今すぐ止めてくれ!」

皇帝の顔色が変わった。

「すぐ止めよ!」

『通常停止には安全確認で十分かかります』

「十分!? 今すぐ止めろ!」

ガルが六本の腕を振り上げた。

「私が装置の制御盤を破壊します!」

「地球の上で爆発させるな!」

健太はクックに尋ねた。

「地球から熱を吸い上げるのを、今すぐ止められないのか!」

『緊急遮断が可能です。吸熱を止め、装置にたまった熱を宇宙側の放熱板へ逃がします。ただし皇帝陛下の認証が必要です』

「なら話は早い!」

健太は皇帝を指さした。

「ほら、最高権限の人がここにいる!」

皇帝は慌てて認証した。

『地球からの吸熱を停止。蓄熱を宇宙側の放熱板へ移送。地球への冷却を停止します』

空に浮かぶ装置の外縁が赤く輝き、熱を逃がす巨大な板が宇宙へ向けて開いた。

『なお、周辺気温の回復には時間がかかります』

「当たり前だ。今度は急に温めるなよ!」

凍りかけていたのぼりから、ぽたりと水滴が落ちた。

美咲は震える手でスマートフォンを確認した。母から「外の氷が解け始めたよ」と届いている。

「……よかった。お母さん、無事だ」

健太もようやく肩の力を抜いた。

「冷麺一杯で、地球の気温まで心配するとはな……」

皇帝は深々と頭を下げた。

「すまなかった。善意で惑星を凍らせるところだった」

「善意にも限度があるんですよ!」

ゼルガードが残った冷麺をすすった。

「冷たい料理は、暑い日に一杯食べるからよいのだな」

「そうです。地球ごと冷やす必要はありません」

美咲が小さく笑った。

「じゃあ、宇宙船の排熱だけちゃんと管理してもらいましょう」

皇帝は真剣にうなずいた。

「全観光船に排熱管理を義務づける。冷麺は適切な冷蔵設備で普及させよう」

「それなら大歓迎です」


翌日。

銀河帝国から記念品が届いた。

『地球氷河期未遂事件 功労者 佐藤健太』

健太は表彰状を見つめた。

「……事件を起こしたの、お前らだろ!」

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