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宇宙人が地球に来た理由が、ラーメンを食べるためだった  作者: レモンティー


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第二話 宇宙人が一万杯注文してきたので、まずアルバイトを募集した

同じ日の朝。

東京の下町。

ラーメン店『らーめん銀次』の前には、地球史上初めての光景が広がっていた。

宇宙人の大行列である。

六本腕の宇宙人。

全身が透明な宇宙人。

頭が三つある宇宙人。

触手で歩く宇宙人。

そして、全長十メートルの巨大な宇宙人。

その全員が、一杯の味噌ラーメンを求めて並んでいた。

「……なあ、美咲」

店主の佐藤健太は、暖簾の隙間から外をのぞいた。

「はい?」

「うち、いつから宇宙人専門店になったんだ?」

アルバイトの田中美咲が答えた。

「昨日からじゃないですか?」

「そうだったな……」

健太はため息をついた。

店内のカウンターは八席。

ところが、店の外には推定三千人の宇宙人が並んでいる。

しかも空を見上げれば、地球を包囲する十二万八千四百隻の宇宙艦隊。

その全員がラーメンを食べたいと言い出したらどうなるのか。

健太は考えるのをやめた。

「……とりあえず、今日のスープは何杯分だ?」

「百二十杯です」

「足りねえな」

「全然足りませんね」

「今朝、問屋に頼んだ味噌は?」

「問屋さんが、全国の味噌蔵に電話してくれているそうです」

「そうか」

健太は腕を組んだ。

「……まず、人手が足りねえ」

「そうですね」

「アルバイトを募集するか」

美咲はうなずいた。

「求人サイトに出します?」

「そうだな」

健太はスマートフォンを取り出した。

そして、求人情報を入力した。

『らーめん銀次 アルバイト募集』

仕事内容:接客、調理補助、皿洗い。

時給:千三百円。

勤務時間:応相談。

未経験者歓迎。

宇宙人歓迎。

「……最後の一行、必要ですか?」

美咲が尋ねた。

「今のお客さん、ほとんど宇宙人だからな」

「確かに」

健太は求人を公開した。

その三秒後。

スマートフォンが鳴った。

『応募がありました』

「早いな」

さらに三秒後。

『応募がありました』

さらに。

『応募がありました』

『応募がありました』

『応募がありました』

画面の数字が猛烈な勢いで増えていく。

百件。

千件。

一万件。

十万件。

「……おい」

「はい?」

「応募が止まらねえ」

美咲が画面をのぞき込んだ。

『現在の応募者数:二百八十四万六千九百十二名』

「宇宙人、暇なのか!?」

健太の叫び声が、厨房に響いた。


午前九時。

『らーめん銀次』で、史上初の宇宙人アルバイト面接が始まった。

最初の応募者は、身長二メートルほどの銀色の宇宙人だった。

腕が六本ある。

「お名前は?」

「ガルガ・ゼルド・第八十二作業個体」

「……長いですね」

「ガルでよい」

「じゃあ、ガルさん」

「はい!」

「アルバイト経験は?」

「あります」

「どんな仕事を?」

「銀河帝国第七艦隊の兵器整備主任を務めておりました」

健太は履歴書を見た。

「……兵器整備?」

「はい。恒星破壊砲の整備を担当しておりました」

「…………」

美咲が小声で尋ねた。

「健太さん、恒星破壊砲って何ですか?」

「知らねえよ」

ガルは胸を張った。

「私は、一秒間に十二万個の精密部品を組み立てることができます!」

「へえ」

「六本の腕を同時に操作できます!」

「それは便利ですね」

「さらに、重力制御能力により、最大三百トンの物体を持ち上げられます!」

健太は考えた。

「……皿洗い、できます?」

「…………」

ガルが固まった。

「サラアライ?」

「はい。食べ終わった丼を洗う仕事です」

「……それは、どのような兵器ですか?」

「兵器じゃねえよ!」

健太は厨房から汚れた丼を一つ持ってきた。

「これを洗ってください」

ガルは丼を見つめた。

そして、六本の腕を広げた。

「了解しました!」

次の瞬間。

丼が宙に浮いた。

「重力分離開始!」

「え?」

「汚染物質を原子単位で分解!」

「ちょっと待て!」

「高出力洗浄!」

ピカッ!

まばゆい光が走った。

丼が消えた。

「…………」

健太は目を見開いた。

「……丼は?」

ガルは誇らしげに答えた。

「完全に洗浄しました!」

「丼ごとなくなってるじゃねえか!」

「汚染物質を百パーセント除去しました!」

「食器まで除去するな!」

ガルはショックを受けた。

「……不採用でしょうか?」

健太は深いため息をついた。

「……スポンジで洗うところから教えるから」

「採用ですか!?」

「仮採用だ!」

ガルは六本の腕を天井に突き上げた。

「銀河皇帝陛下あああああ!」

「叫ぶな! 客がびっくりするだろ!」

店の外から歓声が上がった。

「おおおお!」

「ガルが採用されたぞ!」

「地球の伝説的料理店に就職した!」

「銀河帝国の英雄だ!」

健太は頭を抱えた。

「……ただの皿洗いなんだけどな」


二人目の応募者は、全身が半透明の青い宇宙人だった。

「お名前は?」

「プルル」

「かわいい名前ですね」

美咲が笑った。

プルルは、ぷるぷると震えた。

「得意なことは?」

「分裂」

「……分裂?」

「はい」

次の瞬間。

ポンッ!

プルルが二人になった。

ポンッ!

四人。

ポンッ!

八人。

十六人。

三十二人。

六十四人。

店内が青い宇宙人で埋め尽くされた。

「ちょっと待てえええ!」

健太が叫んだ。

「増えすぎだ!」

六十四人のプルルが一斉に答えた。

「はい!」

「返事も六十四人分かよ!」

美咲は目を輝かせた。

「健太さん! これなら人手不足が解消しますよ!」

「……確かに」

健太は考えた。

「全員、別々に動けるんですか?」

「はい!」

「じゃあ、一人が注文を取って、一人が配膳して、一人が掃除して……」

「できます!」

「すごいな!」

健太は感心した。

「ところで、時給は?」

プルルが尋ねた。

「千三百円です」

六十四人のプルルが一斉に電卓を取り出した。

カタカタカタカタ。

「六十四人なので、時給八万三千二百円ですね!」

「…………」

健太は固まった。

「……一人分じゃないの?」

「六十四人分です!」

「分裂して人件費まで増やすな!」

プルルはしょんぼりした。

「……では、元に戻ります」

ポンッ!

六十四人が一人になった。

健太はため息をついた。

「……一人のままなら採用するよ」

「本当ですか!?」

「ただし、勝手に増えるなよ」

「はい!」

プルルは嬉しそうに跳ねた。

ポンッ!

二人になった。

「増えてるじゃねえか!」


三人目の応募者は、全身が機械でできた宇宙人だった。

「名前は?」

「万能調理機械生命体、クック・マーク九十九」

「……長いな」

「クックとお呼びください」

「で、何ができるんです?」

クックは胸を張った。

「私は銀河帝国最高峰の調理用人工知能を搭載しております」

「おお!」

「十億種類の料理を再現可能です」

「すごいじゃないですか!」

「一秒間に十万食を製造できます」

健太は思わず立ち上がった。

「採用!」

美咲が驚いた。

「早っ!」

「いや、こいつがいれば一万杯の注文も何とかなるかもしれねえ!」

クックは誇らしげに答えた。

「では、味噌ラーメンを製造いたします」

機械の胸が開いた。

内部から調理装置が現れる。

ウィーン。

ガシャガシャ。

ピピピピ。

十秒後。

一杯のラーメンが完成した。

「おお!」

健太は丼を見つめた。

見た目は完璧だった。

味噌スープ。

中太縮れ麺。

チャーシュー。

ネギ。

もやし。

健太は箸を取った。

「……いただきます」

一口すすった。

「…………」

クックが尋ねた。

「いかがでしょうか?」

「……まずい」

店内が静まり返った。

「…………」

クックの目が赤く点滅した。

「エラー。エラー。評価結果に矛盾が発生しました」

「見た目はそっくりなんだけどな」

健太はスープを飲んだ。

「味が平べったい」

「味覚成分は九十九・九九九パーセント一致しています」

「数字の問題じゃねえんだよ」

健太は丼を置いた。

「味噌の香りが弱い。出汁の奥行きもない。麺も均一すぎる」

「均一であることは品質の高さを意味します」

「ラーメンは、均一ならいいってもんじゃねえ」

クックは沈黙した。

健太は続けた。

「味噌を炒める時間、スープの温度、麺の茹で加減。ちょっとした違いで味が変わるんだ」

「……理解不能」

「だから、俺が教える」

クックの目が点滅した。

「……教える?」

「ああ」

「銀河帝国の最高性能人工知能である私に?」

「そうだ」

「地球人が?」

「そうだよ」

クックはしばらく沈黙した。

「……弟子入りを希望します」

「アルバイトの面接だろ!」


昼過ぎ。

健太は三人の宇宙人を前に立っていた。

ガル。

プルル。

クック。

銀河帝国の元兵器整備主任。

分裂能力を持つ生命体。

最高性能の調理人工知能。

全員、アルバイトとして採用された。

「よし」

健太は腕を組んだ。

「まず、店のルールを説明する」

三人が背筋を伸ばした。

「一つ。お客さんにはちゃんと挨拶すること」

「はい!」

「二つ。食器を壊さないこと」

ガルがうなだれた。

「……はい」

「三つ。勝手に分裂しないこと」

プルルが震えた。

「……はい」

「四つ。俺の許可なくラーメンを量産しないこと」

クックがうなずいた。

「了解しました」

健太は満足そうに笑った。

「じゃあ、開店するぞ!」

「はい!」

三人の声が重なった。

店の外から巨大な声が響いた。

「店主ううううう!」

昨日の宇宙艦隊司令官だった。

「どうしました?」

「重大な報告がある!」

「またですか?」

司令官は通信装置を差し出した。

「銀河皇帝陛下から、緊急のご命令だ!」

「……今度は何です?」

司令官は真剣な顔で言った。

「皇帝陛下が、味噌ラーメンをもう一杯食べたいと仰せだ!」

「……食べればいいじゃないですか」

「だが、重大な問題が発生した!」

「何です?」

司令官は震える声で言った。

「陛下が……」

「はい」

「ラーメンのスープを、すべて飲み干してしまわれた!」

「…………」

健太は首をかしげた。

「……それが?」

司令官は叫んだ。

「麺のおかわりを入れるスープが残っていないのだ!」

「新しいラーメンを頼めよ!」

司令官は膝をついた。

「なんと……!」

「何が!?」

「そのような解決策があったとは!」

健太は天井を見上げた。

「……こいつら、本当に宇宙を支配してるんだよな?」


その日の夕方。

『らーめん銀次』に、銀河帝国から巨大な荷物が届いた。

高さ三メートル。

幅五メートル。

銀色に輝く謎の装置。

健太は腕を組んだ。

「……何だこれ?」

司令官が誇らしげに答えた。

「時間加速装置だ!」

「時間加速?」

「内部の時間を、外部の最大一万倍まで加速できる!」

健太は目を見開いた。

「……一万倍?」

「そうだ!」

「じゃあ、十時間かかる仕込みが……」

「わずか三・六秒で完了する!」

美咲が歓声を上げた。

「すごいじゃないですか!」

健太も興奮した。

「こいつは使えるかもしれねえ!」

司令官は満足そうにうなずいた。

「銀河帝国の最新技術だ。ぜひ活用してくれ!」

健太はさっそく、試験用の小鍋にスープの材料を入れた。

そして装置の中へ。

「よし。十時間分で設定してくれ」

「了解!」

装置が青く輝いた。

ウィィィィン!

三・六秒後。

チン!

扉が開いた。

健太は鍋を取り出した。

「……おお!」

美咲がのぞき込む。

「できてます?」

健太はスープを一口飲んだ。

「…………」

「どうです?」

「……まずい」

「ええっ!?」

健太は眉をひそめた。

「煮込みすぎたような味だ。香りも飛んでる」

司令官が驚いた。

「なぜだ!? 時間は正確に十時間進めたぞ!」

「時間だけ進めりゃいいってもんじゃねえんだよ」

健太は説明した。

「途中でアクを取る。火加減を変える。材料を引き上げる。そういう作業が必要なんだ」

クックが前に出た。

「では、私が装置内部で作業すればよいのでは?」

健太は考えた。

「……できるのか?」

「可能です」

「時間加速に耐えられる?」

「私の機械構造なら問題ありません」

「じゃあ、頼む」

クックは装置の中に入った。

「調理工程を記録してください」

健太は手順を説明した。

アクを取るタイミング。

火加減を変える時間。

昆布を引き上げる温度。

味噌を加える直前の状態。

クックはすべて記録した。

「準備完了」

「よし!」

再び装置が起動した。

ウィィィィン!

三・六秒後。

チン!

クックが鍋を持って出てきた。

「完成しました」

健太はスープを一口飲んだ。

「…………」

美咲が緊張した顔で尋ねた。

「……どうです?」

健太はもう一口飲んだ。

「……うまい」

「本当ですか!?」

「ああ。まだ調整は必要だが、かなり近い」

クックの目が青く輝いた。

「成功……!」

健太は笑った。

「やるじゃねえか、クック」

「ありがとうございます、師匠!」

司令官は感激していた。

「銀河帝国の最新技術が……地球のラーメン職人に認められた!」

「いや、逆だろ」

健太は苦笑した。


その夜。

銀河帝国第七艦隊の司令室。

司令官のもとに、緊急通信が届いた。

『司令官!』

「どうした?」

『銀河麺類禁止連邦が動き始めました!』

司令官の四つの目が細くなった。

「……何?」

『敵艦隊、推定五万隻!』

「目的地は?」

『地球です!』

司令室が静まり返った。

『連邦は、地球の麺文化を危険視している模様です!』

司令官は拳を握った。

「……ついに来たか」

『迎撃しますか!?』

司令官はしばらく考えた。

「待て」

『はい?』

「まず、敵の最高指導者について調べろ」

『すでに調査済みです!』

「報告しろ」

『最高指導者は、百五十年前に地球を訪問した記録があります!』

「何!?」

『その際、ある料理を食べた可能性があります!』

「料理だと?」

『はい!』

「何という料理だ?」

通信士は資料を読み上げた。

『きつねうどん』

「…………」

司令官は固まった。

「……ウドン?」

『はい!』

「それはラーメンより強いのか?」

『不明です!』

司令官は震えた。

「……地球には、まだ我々の知らない兵器があるというのか」

『兵器ではなく料理です!』

「同じことだ!」

司令官は立ち上がった。

「至急、皇帝陛下に報告せよ!」

『何と!?』

司令官は叫んだ。

「地球には、ラーメン以外にも麺類が存在する!」

銀河帝国全軍に、最高警戒命令が発令された。

命令名。

『うどん警戒態勢』


一方。

『らーめん銀次』。

健太は店のシャッターを下ろしていた。

「……疲れた」

美咲が笑った。

「今日は大変でしたね」

「ああ」

ガルは皿を洗っていた。

プルルは床を掃除していた。

クックは明日のスープの仕込みを研究していた。

健太は三人を見た。

「……まあ、人手は増えたな」

美咲がうなずいた。

「そうですね」

「明日はもう少し楽になるといいんだけどな」

店の電話が鳴った。

プルルが受話器を取った。

「はい! らーめん銀次です!」

数秒後。

プルルが震え始めた。

「……健太さん」

「何だ?」

「お電話です」

「誰から?」

プルルは恐る恐る答えた。

「……銀河麺類禁止連邦の最高指導者からです」

「…………」

健太は固まった。

「……何の用だ?」

プルルは受話器を差し出した。

健太は電話に出た。

「もしもし?」

低く、威厳のある声が響いた。

『地球人、佐藤健太か』

「はい」

『私は銀河麺類禁止連邦の最高指導者である』

「はあ」

『一つ、確認したいことがある』

「何でしょう?」

長い沈黙。

『……きつねうどんは、まだ存在するか?』

「ありますよ。うちでは出してませんけど、近所のうどん屋で食べられます」

『……誰でも?』

「お金を払って、順番を守れば」

受話器の向こうで、長い息が漏れた。

『百五十年間、銀河中を探した。それが……店に行けば食べられるのか』

「はい。ちゃんと温かいうちに出してくれますよ」

『……そうか』

最高指導者は震える声で言った。

『……一杯、注文したい』

健太は答えた。

「うち、ラーメン屋なんですけど」

『…………』

『……作れないのか?』

「いや、作ろうと思えば作れますけど、専門じゃないんで」

『…………』

『……では』

「はい?」

『地球で一番うまい、きつねうどんの店を教えてくれ』

健太は考えた。

「……そうだなあ」

「知り合いのうどん屋なら紹介できますよ」

電話の向こうで、最高指導者が叫んだ。

『本当かああああああ!』

健太は受話器を耳から離した。

「うるせえな!」

最高指導者は震える声で言った。

『……礼を言う』

「いえいえ」

『では、明日、地球へ向かう』

「はい?」

『艦隊五万隻を率いてな』

そして、静かに言った。

「……あの」

『何だ?』

「うどん一杯食うのに、五万隻も必要ですか?」

『…………』

最高指導者はしばらく考えた。

『……確かに』

「でしょう?」

『では、四万九千九百九十九隻は待機させよう』

「一隻で来いよ!」

地球史上最大の宇宙戦争は、きつねうどん一杯によって回避されようとしていた。

健太は、まだ知らなかった。

銀河麺類禁止連邦の最高指導者が、きつねうどんを食べた瞬間。

銀河全体を巻き込む、さらに大きな騒動が始まることを。

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