↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛されたいだけなのに婚約を解消された針仕事令嬢は、途切れた時間を縫い直して辺境伯に愛される  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/24

第19話 地図の裏側

 巨大な刺繍地図を。


 もう一度。


 裏返す。


 今度は。


 見るだけではない。


 測る。


 マーカス。


 テググ。


 ハフソ。


 三人が。


 机の周り。


 アニサは。


 記録。


 クアイドエンは。


 資料庫と封鎖区画の許可調整。


 一人では。


 できない。


 でも。


 五人なら。


 進む。


 机の端には、昨夜の水路で採った測定値。


 壁の間隔。

 水深。

 銀糸が見えた位置。


 ハフソの感覚だけではない。

 マーカスの数字。

 テググの工務記録。


 三つが同じ場所を指している。


 「前は、私が見える糸を説明するだけでした」


 「今は?」


 「皆さんの情報の中へ置けます」


 自分だけに見えるものを、自分だけで抱えなくていい。


 それも協力なのだと思う。


     *


 「南水路の糸」


 マーカス。


 裏糸へ。


 細い紙片を並べる。


 「表側の道路とは対応していません」


 「つまり」


 テググ。


 「工事線じゃない?」


 「少なくとも、今まで見ていた地上経路とは違います」


 ハフソには。


 裏側の銀糸が。


 少し。


 立体的に見える。


 交差。


 結び。


 一定間隔。


 「ここ」


 針先を。


 触れないよう。


 近づける。


 銀糸。


 光る。


 『戻す』


 前に。


 読んだ文字。


 さらに。


 別の糸へ。


 『分ける』


 「分ける?」


 テググ。


 「何を」


 ハフソ。


 「時間を?」


 次。


 もっと。


 裏側。


 『一へ集めるな』


 「母は、十二年前の方法が間違っていたと思っていた?」


 ハフソ。


 「この裏糸がいつ縫われたかで変わります」


 マーカス。


 記録を確認するテググ。


 「封鎖作業の終盤です」


 「なら」


 クアイドエン。


 「中央へ集める作業を見たあとで残した可能性が高い」


 母は命令へ逆らえなかったのか。

 最後まで別の方法を探していたのか。


 分からない。


 でも。

 同じ選択を繰り返すなという意志は、糸に残っている。


 全員。


 黙る。


 十二年前。


 三百人の時間。


 一か所へ。


 地下へ。


 集めた。


 母は。


 それを。


 知っていた。


 「一へ集めるな」


 マーカスが。


 繰り返す。


 定規。


 数値。


 裏糸。


 「六」


 「何が?」


 彼。


 紙へ。


 数字を並べる。


 「同じ基準長の倍数が、六種類」


 中央。


 北。


 西。


 南。


 東。


 そして。


 王宮。


 「六地点」


 マーカスが地点を書き出す。


 「中央地下」

 「北」

 「西」

 「南」

 「東」

 「王宮」


 六つ。


 点だけではない。

 役割も違う。


 「一つへ集めるんじゃない」


 テググ。


 「六方向へ逃がす?」


 「逃がす、より」


 マーカス。


 「分けて、戻す」


 母の言葉と数字が。

 重なっていく。


 マーカス。


 「南水路を入れると、銀糸の総延長が合います」


 今まで。


 余っていた。


 糸。


 全部。


 六地点へ。


 収まる。

     *


 「旧封鎖は」


 クアイドエンが。


 資料を置く。


 「三百人から切り離した時間を、中央地下へ集めた」


 「はい」


 マーカス。


 「でも」


 ハフソ。


 「母は『戻す』って」


 銀針。


 手の中。


 「『分ける』」


 『一へ集めるな』


 その三つ。


 並ぶ。


 「完全に消えたんじゃないなら」


 ハフソ。


 「押し込められているなら」


 自分で。


 言葉にする。


 「元へ返せる?」


 マーカスは。


 すぐに。


 はい。


 とは言わない。


 「可能性があります」


 「どのくらい」


 「今の段階では数字にできません」


 マーカス。


 「成功率を出せない?」


 「前例がないので」


 「それでも計算する?」


 「はい」


 彼は少し息を吸う。


 「私は、正しいと証明できるまで黙る癖があります。でも今回は、黙っていたら間に合わない」


 彼も。

 少し変わっている。


 その言葉が以前より強く聞こえた。


 いつもの。


 慎重さ。


 「でも」


 「問題は?」


 「戻したら、現在の封鎖が崩れるかもしれません」


 グルアシエルアは。


 今。


 封鎖を維持するため。


 新しい時間を。


 入れようとしている。


 そこから。


 古い時間だけ。


 引き抜く。


 どうなるか。


 「六点へ、どう分けるかもまだ分かりません」


 「計算できる?」


 テググ。


 「します」


 即答。


 そのあと。


 マーカス。


 「ただ、合う保証は」


 「まず」


 ハフソ。


 「やってみましょう」


 数字は。


 マーカス。


 経路は。


 テググ。


 糸は。


 自分。


 一人で。


 正解を。


 出さなくていい。


     *


 マーカスは。

 六地点へ数字を振る。


 距離。

 高低差。

 旧封鎖線とのずれ。


 テググは。

 道路と水路を重ねる。


 ハフソは。

 母の刺繍地図の上へ。

 透明な薄紙を置く。


 直接。

 古い布へ書き込まないため。


 「糸を置いても?」


 「上の薄紙なら」


 資料係。


 赤。

 北。


 青。

 南。


 白。

 東。


 黒。

 西。


 中央。

 銀。


 王宮。

 金。


 色は。

 見分けるためだけ。


 六本を。

 交差させる。


 「ここ」


 ハフソ。


 中央へ全部集めると。

 糸が厚くなる。


 「母の『一へ集めるな』と逆になります」


 テググ。


 「じゃあ、中央は通過点?」


 マーカス。


 「縫い手は中央。でも、負荷の終点にはしない」


 ハフソ。


 口にして。

 全員が止まる。


 「それです」


 マーカス。


 数字を。

 急いで書く。


 中央へ集めない。


 中央で。

 方向を分ける。


 針は。

 結び目になるためではなく。


 六方向へ。

 戻すために使う。


 「まだ仮説です」


 マーカス。


 「はい」


 でも。


 初めて。

 方法の形が。

 手の上へ見えた。

     *


 夜。


 地図を。


 五人で囲む。


 三百人を殺す方法でも。


 全国民から。


 勝手に。


 時間を奪う方法でもない。


 古い犠牲。


 その時間を。


 元へ。


 返す。


 まだ。


 仮説。


 危険。


 不足。


 たくさん。


 でも。


 「第三の方法」


 ハフソが。


 小さく。


 言う。


 クアイドエン。


 「見つかりましたか」


 「まだ」


 首を振る。


 「でも」


 銀糸。


 六本。


 「形は見えました」


 答えが。


 初めて。


 二つの外へ。


 出た。

     *


 六地点を。

 もう一度。


 マーカスが。

 別々の紙へ書く。


 中央。

 北。

 西。

 南。

 東。

 王宮。


 「一つずつでは駄目ですか」


 アニサ。


 「おそらく」


 マーカス。


 「一地点だけ先に戻すと、残った負荷が別地点へ偏る可能性があります」


 「また一つへ集まる?」


 ハフソ。


 「はい」


 十二年前と同じ形。


 「だから六つを同時に」


 テググ。


 「全部つないだまま動かす」


 マーカスが頷く。


 「一人ではできません」


 その言葉に。

 ハフソは。


 なぜか少し嬉しくなる。


 一人ではできない。


 それが欠点ではなく。

 方法そのものの条件になっている。


 「でも」


 王宮。


 指。


 「あと一人必要です」


 「グルアシエルア」


 クアイドエン。


 テググの顔が。

 少し険しくなる。


 「協力してくれますかね」


 「分かりません」


 ハフソ。


 「でも、必要だから命令するのでは駄目です」


 「では?」


 「選んでもらいます」


 自分が。

 選ぶ権利を欲しかったように。


 「反対されたら?」


 「説得します」


 「怖い?」


 「はい」


 それでも。


 「五人で行きます」


 第三の方法。


 それは。

 技術だけではない。


 誰か一人の正しさへ。

 すべてを集めない進め方でもある。


 六本の糸。


 まだ一本。

 空いている。


 でも。


 空いているからこそ。

 無理に埋めず。

 本人へ問いに行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。