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飛鳥異聞~日出処の天子と六道の覇王アスラ  作者: ダンケ
第1章:飛鳥擾乱

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アムリタ

7/15 本日投稿分です。

 洞穴の奥でアムリタは薄青色の光を湛え、静かに脈動している。

 アスラが天界から強奪し、八分割したうちの一つ、病のアムリタ。神仏がひと口飲めば光を得、不死を得られるという秘薬だ。


 天界の神仏とアスラ族が数千年にわたって協力することで物質化した生命力の塊、それがアムリタの正体。

 物質であるから、意思を持つわけではない。

 ましてや誰かを恨む心など持ち合わせてはいない。


 では、なぜ近づく者を排除しようとするのか。


 草木が芽吹き、動物が子を育み、人が命を繋ぐ。

 そのすべての源となる生命そのものが凝縮された存在、それがアムリタだ。

 生命。

 すべての生命に共通する根源の働き。

 それは、生き続けること。

 あらゆる生物は、生き残るために外敵を排除し、傷を癒し、子孫を残すことで種を存続させようとする。


 アムリタは生物ではない。

 しかし、その本質が生命力、生命そのものである以上、自らを存続させるという根源的な性質は、物質化した後も失われなかった。


 それは意志ではない。

 いわば、本能、防衛本能と呼ぶべきものだ。

 ゆえに、アムリタに近づく者を感知すると、その本能は瞬時に反応する。


「奪われる」

 その認識さえ生じれば十分だった。

 自らを守るために環境に改変を加える。

 洞穴の岩壁は脈打ち、瘴気は濃くなり、そこに住まう動物は怪異と化す。


 それでも足りぬときには、闘いの記憶をもとに強大な怪異を創り出す。

 そうやって生まれたのが夜叉王だった。

 アムリタが洞穴に刻まれた闘いの記憶を写し取り、防衛の砦として現出させたのが夜叉王なのだ。


 その夜叉王は厩戸たちによって打ち倒された。

 最強の番人が敗北した。

 アムリタの防衛本能は、厩戸たちを極めて危険な脅威と認識する。

 どうすれば良いのか。


 アムリタには、この洞穴でのもう一つの闘いの記憶がある。

 牛頭馬頭とアスラとの死闘。

 あの怪物であれば、近づく厩戸たちを排除することができるのではないか。


 だが、アムリタの能力にも限界がある。

 失われた生命を復活させることはできる。

 だから、アスラに敗北し、滅せられた夜叉王を復活させることはできるのだ。

 だが、生命あるものを複製するようなことはできない。

 牛頭馬頭は敗北したわけではない。

 生命失ったわけではない。

 現にある存在をアムリタの力で現出させることはできないのだ。


 では、どうするか。


 アムリタは、アスラたちの闘いの記憶を反芻する。

 幾度も幾度も反芻する。

 そして一つのことに着目した。


 牛頭馬頭を召喚した術師がいる。

 その術師を利用することはできないか。


 その術師もまたアムリタを奪おうとしていた。

 厩戸たちがアムリタに近づきつつあることを知れば、必ず阻止しようとするだろう。

 双方を争わせ、共倒れになれば良し。

 どちらかが生き残ったとしても、闘いで消耗しているはず。

 再び夜叉王を創生すれば、打ち倒すことは容易であろう。

 

 アムリタは洞穴内を精査する。

 すると、アスラたちが闘った場所に焼け焦げた式神の欠片を発見した。

 術者との繋がりも微かながら残されている。

 これを辿れば術師に接触することができよう。


 洞穴の奥でアムリタは静かに脈動している。

 自らの存続のための最後の賭けが始まろうとしていた。


お読みいただきありがとうございます。

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明日も1話投稿予定です。

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