厩戸の想い
7/12 本日投稿分です。
宇陀野洞穴の奥では、厩戸一行と夜叉王が対峙している。
夜叉王は深紅の眼で厩戸を睨みながら、右の巨腕を掲げると、周囲の瘴気が集まり始める。
「な、なんだ?」
瘴気は急速に凝り固まり、巨大な棒と化した。その棒を夜叉王が横なぎに一閃する。
「うおっ」
その風圧だけで空気そのものが裂け、暴風となって厩戸たちを襲う。
「なんという馬鹿力だ」
天燈鬼が一歩前に出る。
そこへ夜叉王が巨棒を振り下ろす。
その踏み込みによる轟音と共に大地が爆ぜ、岩盤が砕け散る。
「絶界壁!」
両手を広げた天燈鬼を半球状の結界が包み込む。
凄まじい衝撃が結界を揺るがし、結界に亀裂が走る。
崩壊するかという瀬戸際で、なんとか耐えきった。
天燈鬼の額に汗が浮かぶ。
そこへ龍燈鬼が巨体を揺らしながら飛び込んでいく。
肩に担いだ金棒を振りぬいた。
それを夜叉王は真正面から受け止める。
金棒と巨棒がぶつかり合い、拮抗する力で地面は蜘蛛の巣状にひび割れた。
龍燈鬼は全身の筋肉を膨れ上がらせて、さらに押し込もうとする。
夜叉王も低くうなりながら押し返す。
「厩戸!」
天燈鬼の叫びに頷く厩戸。
「オン・アグニャ・シャバダ・ウン!」
黄龍。
炎が龍と化して夜叉王に襲いかかる。
轟!
巨大な炎の龍が夜叉王を飲み込み、洞穴を白く染め上げた。熱風が吹き荒れ、周囲の岩壁が焼け爛れる。
「やったか!」
だが、炎の中の巨影が腕をひと振りすると、炎が左右に吹き飛んだ。
夜叉王は全身から黒い瘴気を噴き上げながら、咆哮をあげる。
すると夜叉王の焼け焦げた傷跡が、みるみるうちに塞がっていく。
「これは!傷口を再生しているのか!」
厩戸が息を呑む。
夜叉王は龍燈鬼へ向かって踏み込み、巨棒を振り下ろす。
龍燈鬼は金棒で受けるが、衝撃で吹き飛ばされ、岩壁に激突した。
間髪を入れず、夜叉王は天燈鬼に向けて巨棒を叩きこむ。
咄嗟に防御の結界を張る天燈鬼。
受け止めたかに見えたその瞬間、結界は砕け散り、天燈鬼が地に転がる。
「これは!」
夜叉王の力がさらに増している。
厩戸は思わず懐の横笛に手を触れる。
横笛を吹いたなら、アスラがこの場に現れるだろう。
アスラならば、再び夜叉王を打ち倒すことができるに違いない。
だが、厩戸は思いとどまる。
この後に必ずアスラの力が必要な時が来る。
ここは自分たちの手で夜叉王を倒さねばならない。
厩戸はアスラの言葉を思い出す。
「想いの強さが術の威力を左右する」
ならば、今の自分を突き動かす想いとは何だ。
それは、なんとしても善徳を救うという想い。
その想いは、この程度の敵さえ打ち倒せぬほどの軽いものなのか。
「断じて違う!」
厩戸は印を結び、再び火炎呪を唱える。
天燈鬼は結界を張り、夜叉王の猛攻を受け止まる。
龍燈鬼は金棒を振りかざし、夜叉王へ殴り掛かる。
洞穴には金棒と巨棒の激突する轟音、爆ぜる炎、砕け散る結界の光が絶え間なく交錯し、壮絶な死闘はいつ果てるともなく続いていく。
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