宇陀野へ
7/11 本日投稿分です。
「なんと、では、厩戸どのは既に宇陀野へ向かっているのですね」
驚いて問う善徳に、そうだ、と頷くアスラ。
すでに重臣たちは退出し、部屋には善徳たちだけが出立の準備をしていた。
「兄さまを救うために、アムリタを求めて洞穴に向かわれたの」
「ならば、なおさら急がねばなるまい。われのために厩戸どのが命を危険にさらしている。それを知って安穏としていることなどできない。嶋どのの言う通り、今すぐ発とう」
刀自古と嶋も頷いた。
「まあ待て」
黙って見つめていたアスラが口を開く。
「その覚悟は見事だ。だが、覚悟だけではアムリタを手にすることはできぬ」
アスラの言葉に善徳は足を止める。
「おれも暫くは動けぬ。おれが動けば必ず徐福がそれに気付く。それに、おれが本来の力を取り戻すには、時が必要だ」
厳しい表情の善徳にアスラはわずかに口元を緩める。
「だからといって、行くなとは言わぬさ。だが、無闇に飛び込むようなことはするな。厩戸もそんなことは望んではいまい」
アスラは善徳の胸元を指差す。
「まずお前だ。お前の思い切りの良さは、確かに長所だ。だがな、全ての敵を一撃で倒すことはできぬ。仲間を信じよ。一人で闘うのではない。刀自古がいる。嶋がいる。そして厩戸もな。仲間と共に闘い、お前の最高の一撃を叩きこむ時を見極めるのだ」
善徳は拳を握りしめ、しっかりと頷いた。
「次に刀自古」
ん?と刀自古は顔を上げる。
「洞穴には時に狭い場所がある。剣よりもお前の拳の速さが進化を発揮するだろう」
うんうんと頷く刀自古。
「だが、決して力任せに突っ込むな。息を整え、拳に集中しろ。一撃必殺を狙うのではなく、確実な連撃を心掛けよ。お前の積んできた修練を信じるのだ。心を無にすれば、最速最適の拳が振るえるはずだ」
「最後に嶋」
「はい」
嶋が前に出る。
「お前の治癒術は大したものだ。だからこそ、敵にとっては最優先に狙うべき存在となる。決して一人で前に出るな。お前が先に倒れたら全員が崩れる。後方で仲間を支えることこそが、お前の役割なのだ」
嶋は真剣に耳を傾けている。
「覚えておけ。最も恐ろしいのは焦りだ。焦りで心を乱した者から倒れていく。極限の闘いとはそういうものだ。互いを信じ、自らの最善を尽くせ」
三人は互いの目を見つめ合い、しっかりと頷き、お互いの覚悟を確認し合う。それを見たアスラもわずかに笑みを浮かべた。
「おお、そうだ、刀自古」
アスラが懐から何かを取り出し、刀自古に放り投げる。
「ひゃっ」
慌てて受け取った刀自古。
「え?家鳴り?」
きゅい、と鳴く一体の家鳴り。丸い眼で刀自古を見上げている。
「と、刀自古ちゃん、なに、その可愛い生き物」
嶋も驚いている。
「この子は家鳴り。刀自古の友達なんだ。でも、なんで?」
「どうしても連れて行けとうるさいのでな。何かの役に立つかもしれん。連れて行ってやれ」
刀自古は嬉しそうに家鳴りの頭を撫でた。
「では、行け。決して死ぬなよ」
善徳は一瞬だけアスラの瞳を見つめる。
迷いはない。
何としても厩戸と共にアムリタを持ち帰る。
腰の神剣天断をひと叩きし、善徳は宇陀野へ向けて歩み始めた。
お読みいただきありがとうございます。
評価、ブックマーク、レビュー、感想などぜひお願いいたします。
明日も1話投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




