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飛鳥異聞~日出処の天子と六道の覇王アスラ  作者: ダンケ
第1章:飛鳥擾乱

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再生

7/7 七夕、本日投稿分です。

 嶋の詠唱が始まる。

「天地に満ちる生命の精霊よ、我が祈りに応え、慈悲の光を降ろし給え」                                                         

 清涼な空気が部屋に満ち、黄金の光が部屋に広がる薄緑の光と混ざり合い、大きなうねりとなって嶋を包み込む。


「ほう、我が言葉というところを我が祈りと言い換えたか。やはり、おれの言葉を理解できたようだな」

 アスラは目を細め、口の端をわずかに上げる。

 光の渦のうねりの中、嶋はさらに言葉を重ねていく。


「その慈しみの光をもって、あるべき命の理を示せ。我は願う、隠れし患いと失われし調和を我に開示し給わらんことを」

 頭上に広げた両手を降ろし、横たわる善徳の上にゆっくりとかざす。

 黄金のうねりが一筋の流れとなって善徳に降り注ぎ、淡い光が全身を走り始めた。


「嶋ちゃん、頑張って!」

 刀自古の願いに応えるように、嶋の詠唱の熱量が上がる。


「我は請い願う。命の理をしろしめす大いなる聖霊よ。慈悲深きその御力をもって再生への道へと我を導き給え」

 善徳の全身を走る光がその速度を上げる。

激しく点滅しながら光量を上げていく。

 やがて光は五つの場所に分かれて点滅を始めた。

 五臓、すなわち肝、心、脾、肺、腎、そのどこに問題があるのかを点滅の強弱と光量の多寡が示している。


「ここまでは順調だな」

 腕組みをしたアスラが呟いた。

 その後ろでは額に深い皺を刻んだ司馬達等が、少しの異変も見逃すまいと嶋を見つめている。

 いよいよ次が勝負所。

 先ほどは失敗した治癒の段階だ。

 嶋の額に汗が浮かぶ。


「天地に満ちる精気は魂の息吹となりて尊き生命を再び蘇らせん。精霊よ、精霊よ、我が祈りに応え大いなる慈悲を示せ。命の理を再び巡らせ、命の灯火をあるべき輝きへと還し給え」

 善徳を包む光が一気に輝きを増す。

「くっ」

 苦悶の表情を浮かべる嶋。

 だが耐える。

 今にも崩れそうな足を踏ん張り、震える両腕を気力で押さえつける。

 気力、体力を限界まで振り絞り、嶋は大きく目を見開く。


「わが魂の祈りを捧げん!」 

 その瞬間、輝く光が一気に善徳の体内に吸い込まれた。


 詠唱を終え、祈りを捧げた姿勢のまま微動だにしない嶋。

 その姿を部屋に集う面々は息を詰めて見つめている。

 静寂に包まれた寝室で、善徳の呼吸が次第に深く、穏やかなものに変わっていく。


「ううっ」

 善徳の指先がわずかに動いた。

「兄さま!」

 身じろぎした善徳に気付いた刀自古が寝台に駆け寄る。

 閉じられていた善徳の瞼がゆっくりと開く。

「刀、自古?」

 その言葉を聞いた瞬間、刀自古はこらえていたものが一気に溢れ出した。

「兄さま、よかった、本当によかった」

 大粒の涙が善徳の胸に零れ落ちる。


「ふう」

 兄妹の姿を見ていた嶋が、大きく息をついた。

 張り詰めていた全身の力が一気に抜ける。

 その場に座り込みそうになるのを何とか耐えた。

「よくやった」

 嶋の背中を司馬達等はそっと支える。

「本当によくやってくれた。自慢の娘だ」


 善徳がゆっくりと身を起こすと、部屋にいた者たちの間から安堵の吐息が広がった。

 その穏やかな空気の中で、嶋は誰にも気づかれないよう、目元に滲んだ涙をそっと指先で拭った。


「本当に、本当に良かった」


お読みいただきありがとうございます。

評価(星)、ブックマーク、感想、レビュー、どれか一つでもお願いできればと思います。

明日も1話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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