根源属性
7/4 本日投稿分です。
再び善徳の治癒に挑む嶋の背中を、司馬達等は複雑な表情で見つめていた。
精霊が活性化したことにより、術の成功率は上がったはずだ。
そこまでは、達等の目論見通りだった。
だが、どういう機序で精霊が活性したのか。
謎の従者が関わっていることは確かなのだが、その仕組みがわからない。
だから、嶋の治癒術の成功に確信が持てないのだ。
「なんと無力なことか。だが、いまは祈るしかあるまい。頼むぞ、嶋」
達等や刀自古の見つめる中、嶋は再び善徳の前に立つ。
静かに目を閉じて深呼吸し、両手を頭上に掲げる。
「天地に満ちる生命の精霊よ、我が声に応え、慈悲の光を降ろし給え」
嶋の言葉に応えるように、清涼な空気が部屋に満ち始める。所々にきらめく黄金の粒は、前回よりも大きな渦を巻き始める。
黄金の渦のうねりの中、嶋は言葉を重ねていく。
「その慈しみの光をもって、この身に潜む傷と病の理を示せ」
頭上に広げた両手を降ろし、横たわる善徳の上にゆっくりとかざす。
黄金のうねりが一筋の流れとなって善徳に降り注ぎ、淡い光が全身を走り始めた。
「我は問う。命の理に従いて癒すべき道を。慈悲深き精霊の御力をもって我を導き給え」
善徳の全身を走る光がその速度を上げる。
激しく点滅しながら光量を上げていく。
やがて光は五つの場所に分かれて点滅を始めた。
人体を構成する五臓六腑。
とりわけ気や血、生命力を生み出し蓄える五臓、すなわち肝、心、脾、肺、腎。
そのどこに問題があるのか。
臓器の損傷や気血水の滞りの部位とその緊急度を、点滅の強弱と光量の多寡が示していた。
よし。
嶋は心の中で拳を握りしめる。
ここまではうまく行っている。
次は治癒の段階。勝負所だ。
「我が全霊をもって願い奉る。傷つきし肉を結び、砕けし骨を繋ぎ、血脈を再び巡らせ給え。精霊よ、精霊よ、我が願いを聞きとげ給え」
嶋の願いを込めた呪言が紡がれる。
最も強く点滅し、光量も最大だった心の部位の光が輝きを増す。
眩いばかりに激しく点滅し、次第に緑へとその色が変化し始めた。
「む。いけるか」司馬達等が期待を込めた眼差しで見つめる。
点滅を止めた緑の光はさらに色を濃くし、ゆっくりと深緑に近づいていく。
それにつれて嶋の額に汗が浮かび始めた。眉間には深い皺が刻まれる。
「嶋ちゃん、頑張って!」
だが次第に嶋の顔は色を失い、体も微かに震えだした。
深緑の光も安定を失い、再び点滅を始める。
「いかん!」
司馬達等の叫びと同時に深緑の発光は次第に弱まり、やがて静かに消えていった。
「ごめん、刀自古ちゃん」
嶋は再び膝をつき、荒い息遣いのまま刀自古に詫びる。
刀自古は嶋の肩をそっと抱きしめた。
「ううん。嶋ちゃんのせいじゃないよ」
「おい刀自古。甘やかすのはよせ」
「は?何を言うの。嶋ちゃんは悪くない。嶋ちゃんは頑張ったんだよ」
アスラは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ほう、頑張っただと?だが、結果はどうだ。間違った頑張りなど何の意味もないのだ」
なおも言い返そうとする刀自古を制して、嶋が立ち上がる。
「確かに私は術を発動することができませんでした。ですが、間違った努力とはどういう意味でしょうか。力が足りぬという批判なら甘んじて受けましょう。でも、これまで積み重ねてきた努力まで否定される筋合いはないと思うのですが」
「そうだよ。間違っているのはアスラの方だよ」
刀自古も負けじと加勢する。
アスラはやれやれと首を振り、傲然と腕を組む。
「こんなところまで連れてこられた挙句、何も知らぬ馬鹿どもに教えを垂れねばならぬとは」
「だから、何が間違っているというのです」
「お前の根源属性は木だ」
「は?またそれですか。いったい何なのです、その根源属性とやらは」
眉を顰めて問う嶋。
あ、それ知ってると言いそうになる刀自古だったが自重する。刀自古は空気の読める女なのだ。
「木火土金水。呪言師なら知っておろう。あらゆる存在はこの五つの力を秘めている。そしてその存在の在り様を決め、最も強く現れる力をその存在の根源属性と呼ぶのだ」
「最も強く現れる力?」
そうだ、とアスラは頷く。
「お前の根源属性は木。木とは精気。癒しと復元、再生の力だ。それを知らずして行う努力など、意味がない。まさに間違った努力というほかあるまい」
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