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飛鳥異聞~日出処の天子と六道の覇王アスラ  作者: ダンケ
第1章:飛鳥擾乱

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司馬達等

6/26 本日投稿分です。

W杯、次はブラジル戦ですね!

 善徳が重傷を負ったという一報が届いたとき、司馬達等は池辺氷田とともに自らの屋敷に居た。

「して、状況はどうなのだ?」知らせをもたらした小者に聞けば、明日をも知れぬ瀕死の状態であるという。


「すぐに蘇我どのの屋敷に向かおう!」

 いきり立つ氷田とは裏腹に、達等はすぐには動かない。

「われらが駆け付けても、できることはあるまい」

 しばし待て、と言い置いて、筆と硯を取り出した。すらすらと書状をしたためると、それを氷田に託す。

「嶋を呼び戻す。これを恵便どのへ届けてはくれぬか」

「おお、嶋どの。その手があったか!」

 承知とばかりに書状を受け取った氷田は、恵便のもとへと向かうのであった。


 嶋。

 司馬達等にとっては実の娘であり、呪言術の弟子でもある。

 そして嶋にはもう一つの顔がある。

 恵便の弟子という顔がそれだ。


 恵便。

 もとは朝鮮半島、高句麗の僧侶で、還俗して司馬達等のもとに身を寄せた渡来人である。

 還俗した以上、仏弟子としてではなく一人の民として生きる。そう決心していた恵便であったが、時代はそれを許さなかった。

 崇仏・廃仏論争。

 僧侶という経歴を持つ恵便は、蘇我氏と物部氏の政争に否応なく巻き込まれていくことになる。


 当時、蘇我馬子たち崇仏派はひとつの問題を抱えていた。

 仏教を受容し、布教するためには僧侶の存在が必須である。だが、当然のことながら、未だこの国に僧侶はいない。

 そこで馬子が目を付けたのが恵便だった。


 馬子は恵便のもとを訪ね、僧侶の育成を依頼した。導師として弟子をとり、僧侶として得度させることを求めたのだ。

 

 最初はその申し出を断った恵便であった。

 だが、熱心な馬子の申し出に、次第に心を動かされるようになる。

 最後の決め手となったのが、同じ渡来人である司馬達等の言葉だ。


「我ら渡来人は、この国で生きていかねばならぬ。技術を伝え、知識を伝え、持てる力をすべて使って生き抜いてきたのだ。いま、この国は仏教の受容を巡って激しく争っている。大陸由来の仏教が禁じられれば、同じく大陸由来の我ら渡来人の立場もまた危ういものとなろう。ならば、なんとしてもこの国に仏教を根付かせねばならぬのだ」


 そこまで言われれば、恵便に断る術はなかった。

 導師となることを承諾したのだが、ここで恵便は一つの条件を示した。

「わが最初の弟子には、嶋どのを。それが適うなら、ご依頼をお受けいたしましょう」


 恵便は言う。

 この国に仏教を布教する。それはこの国の未来を左右する大事となりましょう。

 ならば、失敗は許されませぬ。

 この国で初めての僧侶となる者には、頭の冴え、思考の柔軟性、使命を果たすという強固な意志、そのすべてが必要です。

 嶋どのは、幼いながらもそのすべてを備えておられる。

 何とぞ、わが最初の弟子には嶋どのを。


 困ったのは司馬達等である。

 確かに嶋は、幼い頃からその利発さで周囲の者を驚かせていた。

 恵便の言う通り、嶋であれば立派に使命を果たすであろう。

 だが、仏弟子になるということは、出家するということだ。


 嶋は呪言の術に関しても、突出した才を示していた。将来は、自分など足元にも及ばぬ呪言師に成長するであろうと司馬達等は考えていた。

 出家するということは、即ち呪言師としての道を閉ざすということだ。それはいかにも残念だと思う。

 また、まだ幼い嶋に出家を強いることにも抵抗がある。

 一方、蘇我馬子の手前、これを断るというのも立場上難しい。


 どうすれば良いか。

 悩んだ末に、一計を案じた。

 本人に断らせるというのはどうか。

 まずは嶋に出家の件を話すことにした。

 利発な嶋のことだ、必ずや父の意図を察して断ってくれるであろう。


「もちろん、お受けしますよ」

 にこにこと微笑みながら答える嶋に、司馬達等は絶句する。

「い、いや、出家するとなると呪言師の道を諦めるということになろう。嶋はそれでよいのか?」

 は?と嶋が首を傾げる。

「なぜ諦めねばならぬのです?」

 逆に司馬達等も首を傾げる。

「呪言の修行と両立できるほど、仏道は簡単なものではないであろう」

 ふう、と嶋がため息を吐く。

「父さまは嶋のことを甘く見ておられます。やると申し上げた以上、嶋は二兎を追い、必ず二兎とも手に入れて見せましょう」

 むむ、と司馬達等は眉を顰める。

 

「だが、出家してしまえば誰かと縁を結び、子を成すこともできなくなろう」

 からからと嶋は笑い声をあげる。

「その時は還俗すれば良いのです。聞けば師となる恵便さまも、一度は還俗されたお方とか。弟子の還俗を禁ずることなどできますまい。嶋は僧侶として立派に勤めを果たした後、素敵な殿方と巡り合って還俗し、幸せな一生を送るのです」

 がっくりと肩を落とす司馬達等を見て、嶋はくすくすと笑う。


 こうして嶋は、この国最初の僧となるべく恵便を師と仰ぐことになった。


お読みいただきありがとうございます。

評価(星)、ブックマーク、感想、レビューなどぜひお願いいたします。

明日も1話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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