友
遅くなりました。6/24 本日投稿分です。
「ふむ。仕損じたか」
戦況を見つめる徐福がため息をつく。
「となると、これ以上の戦闘は無意味じゃな」
厩戸は殺し損ねたが、善徳とかいう蘇我の跡取りに手傷を負わせた、いや、命を奪った可能性もある。蘇我にとっては痛手となろう。
わしがアムリタに辿り着くには鬼道の力がまだ足りぬ。それはアスラも同様であろう。ならば、ここは一旦退くが得策。牛頭馬頭は貴重な戦力ゆえにな。
徐福は目を閉じ、印を結ぶ。
「戻れ、牛頭馬頭。無間還闇!」
その瞬間、戦場から牛頭馬頭の姿が消えた。
アスラの眉が吊り上がる。
「おのれ、徐福!臆したか!アグネ・プラヴァハ(炎よ、奔流となれ)!」
闇の気配の残滓が漂う洞穴の奥へ、炎の激流を叩きこむ。
赤く灼熱した岩肌と渦巻く熱風が炎熱地獄を現出させるが、そこに徐福の姿はない。
怒りに任せて足元の岩を蹴り上げる音が虚しく響いた。
しばらく立ち尽くしていたアスラだったが、やがて三面六臂の姿を解くと、厩戸たちを振り返る。
「ん?」
見ると、厩戸が真っ青な顔で立ち尽くし、その足元には善徳が倒れている。
「兄さま!いや、いやぁっ」
刀自古が地面に膝を突き、倒れ伏す善徳に縋りつく。
「兄さま!兄さま!しっかりして!」
だが善徳は応えない。仰向けに倒れたまま動かない。
必死に傷口を押さえる刀自古の手が、善徳の流す血で染まっていく。
厩戸の肩が震えている。
「自分のせいだ。善徳どのは自分を庇って」
言葉が続かない。無力な自分を善徳が庇って倒れたという事実に打ちのめされ、地に縫い付けられたように動けない。
善徳が自分を庇った。
善徳に深々と刺さるこの矢は、自分の胸を貫くはずだったのだ。
そこへアスラが近づいていく。
「アスラ!兄さまが、兄さまが!」
しかしアスラは刀自古に目をやることもなく、真っすぐに厩戸へと向かって歩いていく。
「厩戸よ」アスラの声が低く響く。
だが厩戸は反応しない。
言葉一つも紡ぐことができずに、善徳を見つめたまま、肩を落として立ち尽くしている。
「厩戸よ!」
再び響いたアスラの声に、ようやく顔を上げた厩戸は、虚ろな目でアスラを見る。
「お前、何をしている」
「何をって、、、善徳どのが我を庇って、、、」
「は?」アスラの声が怒りを帯びる。
「だから何だ?自分は守られる価値などないのにとでも言いたいか?」
厩戸が力なく頷く。
フン、とアスラが鼻で笑う。
「そうだ。お前は守られるべきではなかった。お前は、守られるために生まれてきたわけではないのだからな」
アスラの言葉に厩戸は唇を噛みしめる。それを見たアスラが目を細める。
「お前、まさか忘れたわけではあるまいな。六道の覇王たる俺を前にして言い放った言葉を。強くあらねばならぬと誓ったお前の覚悟を。お前は守られるべきではない。守るべきなのだ。そのお前が、友の命を見捨てるというのか!」
アスラの言葉は刃のように鋭く、炎のように熱かった。
「友の命、、、」
ドクン!
その言葉が厩戸の心臓の鼓動と重なった。
「アスラどの!われは何をすれば!」
アスラは凶悪な、しかし力強い笑みを浮かべる。
「決まっている。何としても善徳の命をつなげ!」
厩戸が動き出す。
「刀自古どの。善徳どのを蘇我の屋敷へ運びます。わが屋敷では十分な手当てができませぬゆえ」
その言葉に刀自古がしっかりと頷く。
「天燈鬼、龍燈鬼、善徳どのを頼む!」
応、と答える二体の鬼。
なんとしても善徳を救う。そう決意した厩戸の心にアスラの言葉が刻み込まれる。
友。
友の命。
すべてを賭けて守るべきものが、そこにあるのだ。
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厩戸がアスラに言い放った言葉とは?→epi33厩戸とアスラ②
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