激闘
6/23 本日投稿分です。
三面六臂の覇王アスラと地獄の獄吏牛頭馬頭。
人外同士の闘いが始まろうとしている。
もとより人間界では制限のかかるアスラであるから、時間をかけるつもりは露ほどもない。一方の牛頭馬頭も、持久力よりも一瞬に全力を解放する瞬発力に特長を持つ。
短期決戦。
様子見や駆け引きなどは思慮の外。
双方ともに、全力で相手を叩き潰すことだけを考えている。
牛頭馬頭が天地を震わす凄まじい咆哮と共に、大地を蹴って突進してくる。一歩ごとに地割れが走り、大気を引き裂く風刃を引き連れてアスラの懐へと踏み込んでいく。左手の青龍刀は上段からの振り下ろし、右手に握った矛は神速の突き、必殺の連撃がアスラを襲う。
だがアスラは退かない。
頭上から迫る青龍刀を裏拳で弾き飛ばし、矛の先端を蹴り上げる。同時に結んだ印から発する火炎が風刃を蒸発させた。空いた牛頭馬頭の分厚い胸板に音速の拳撃を叩きこむ。
たまらず後退する牛頭馬頭だが、矛を横薙ぎに払うことでアスラから距離を取る。
「牛頭よ、力押しでは奴には届かぬ」
「馬頭よ、風の速さも奴には通じぬ」
「ならば、あれか」
「ならば、あれだな」
巨躯の上に乗った二つの頭が頷きあう。
二つの顔の四つの眼が凶悪な光を帯びる。
そして、二つの声が重なった。
「冥影三鬼!」
牛頭馬頭は地を蹴ると、疾風の様な加速でアスラの周囲を旋回し始めた。土煙が渦を巻き、地を踏み砕きながら疾駆する轟音が耳をつんざく。
「見て!まるで牛頭馬頭が何体もいるみたい!」
「さらに速度が上がったか!」
目を見張る刀自古と善徳。厩戸もじっと成り行きを見つめている。
高速で旋回する牛頭馬頭の巨躯が、陽炎のように揺らめき始める。巻き起こる土煙と轟音の中、牛頭馬頭の残像が重なり合い、ついに三体の分身となってアスラを包囲した。
右。
左。
そして正面。
右の分身は巨大な矛の柄をしごき、突き掛からんと中段に構え、
左の分身は鋭利な青龍刀を抜き放ち、一刀両断すべく上段に振りかぶり、
正面の分身は腰を落とし、一撃必殺の拳を叩きこむべく力を籠める。
それを見たアスラが冷笑を浮かべる。
「その程度の芸で俺を倒せると思ったか」
するとアスラは頭上に六本の手を伸ばし、何もない空間から六振りの剣を引き出した。六臂それぞれが手にする六振りの剣。そして三面それぞれが、三体の牛頭馬頭と対峙する。
「ほざけ!」
牛頭馬頭の殺気が一気に膨れ上がり、圧し潰さんばかりの漆黒の闘気がアスラに向かって放たれる。
だがアスラは動じない。
六振りの剣の構えに力みはなく、まさに攻防一体の自然体で牛頭馬頭を迎え撃つべく黄金の闘気を練り上げる。
漆黒と黄金。
二つの闘気がせめぎあい、渦を巻き、大気は熱を帯びて周囲の岩肌が灼熱する。その緊張が頂点に達したとき、ついに戦端が開かれた。
ドガン!
爆発音と同時に三方から牛頭馬頭が殺到する。
連続する激突音、交差する黄金の光と漆黒の闇、響き渡る咆哮と荒い息遣い。
牛頭馬頭の防御を捨てた攻撃は止まらない。
それをすべて受け止め、打ち返し、舞うように回避するアスラ。
その人外の闘いに圧倒され、息を飲んで見つめる厩戸たち。
互いの攻防が最高潮に達しようとしたその時だった。
ブン!
大気を鋭く裂く音が響く。
「危ない!」
何者かが厩戸の目の前に飛び込んできた。
一瞬の出来事に、驚きのあまり目を見開いて硬直する厩戸。
「兄さま!」刀自古が悲鳴を上げる。
どこからか飛来した矢で背を深々と貫かれ、善徳が血反吐を吐いて倒れ伏していた。
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