転機
6/21投稿分です。
日本代表のチュニジア戦、素晴らしいパフォーマンスでしたね!
アスラは厩戸たちの闘いを注視している。
それぞれが良く闘ってはいるが、決定打を与えるまでには至っていない。
だが、その闘いの中でそれぞれの成長をはっきりと感じ取ることができる。
刀自古の正中三極破。無心の境地で危険を恐れぬ見事な踏み込みを見せた。
善徳の金剛斬。迷いを捨てた思い切りの良い一撃に目を瞠った。
そして、厩戸。想いを込めた黄龍の炎もまた圧巻の威力であった。
「これは、このまま押し切るかもしれぬな」
だが、まだ安心はできない。
相手はあの徐福なのだ。
人の身でありながら、鬼道と策略を武器に千年に亘ってアスラと対峙してきた男。
想像もできない秘策を隠し持っていたとしても不思議ではない。
そして、そのアスラの予感は現実のものとなる。
洞穴の奥の闇の気配が膨れ上がると、再び徐福の呪文が響き渡った。
「無間招闇、血盟融合!」
その瞬間、轟という音と共に、牛頭と馬頭の後方に新たな渦が生成された。
「ちっ」牛頭は明らかに不満そうに舌打ちをする。
「ふむ」馬頭は少し驚いたように目を見開く。
そして二体の鬼は厩戸たちを一瞥すると、攻撃を中断した。やれやれとでも言うように牛頭が頭を振りながら渦に向かって歩みを進める。それを確認した馬頭が呆れたように肩を竦め、牛頭の後を追って生成された渦の中へと入っていく。
「え?逃げる?」
戸惑う刀自古に善徳が首を振る。
「いや、まだだ」
二体を飲み込んだ謎の渦が、明滅を繰り返しながら膨張していく。
耳障りな音を発しながら渦の回転が速くなる。
「いったいどうなっているのだ?」
その善徳の呟きに応えるように、渦の内部から大音量の咆哮が轟いた。
ズシン、ズシンと足音を響かせながら巨大な何かが渦の内部から現れようとしている。
「厩戸、火炎呪だ!」
天燈鬼の声に、厩戸が渦に向かって黄龍を打ち込む。
だが、渦の表面がわずかに赤熱するだけで、内部から聞こえる足音に変化はない。凶悪な臭いを撒き散らしながら、着実にこちらに向かってくる。
「な、何だあれは!」
厩戸たちが息をのむ。
渦の表面が裂け、その中心から血に染まったような深紅の腕が現れる。両腕で渦の中心を左右に広げ、 そこから出した巨大な片足が洞穴の地面を踏みしめる。その足に力を込めて、ぐいとばかりに渦から全身を引きずり出した。
現れたのは、見上げるばかりの巨大な鬼、そして、その巨躯のうえには二つの頭が載っていた。
「なんと!二体の鬼を合体させたか」
見れば、右には牛頭の、左には馬頭の頭が載っている。
その四つの眼が厩戸たちを睨む。
一斉に戦闘態勢に移行する厩戸たち。
だが巨大な鬼は、すぐには攻撃してこない。
「おい、馬頭よ。本当にここまでやる必要があるのか。あんなちっぽけな人間どもを捻りつぶすことなど簡単であろうが」
右の頭が不満を漏らすが、左の頭は不敵に笑う。
「そう言うな牛頭よ。どうやら徐福に考えがあるようだ。この姿で闘うことに、何らかの意味があるのだろうよ」
「ふむ。徐福が足りぬ頭で考えたのは、この俺のことではないか?」
そう嘯いて、アスラが厩戸たちの前に出た。
「アスラどの!」声をかける厩戸を手で制して、アスラはさらに前に出る。
「ああ、こいつはちょっと厄介だ。今のお前らでは手に余ろう。ここは俺に任せておけ」
「おいおい馬頭よ。なにやら随分と偉そうな小僧が出てきたぞ。目付きは悪いが、あんな華奢な体で何をしようというのだ?」
心底馬鹿にしたように首を傾げる牛頭だったが、馬頭は目を細め、訝しげにアスラを観察している。そして、何かに気付いたように目を見開いた。
「ふむ、貴様、人ではないな?いったい何者だ?」
アスラは腕組みをしたまま傲然と胸を張り、不敵に笑う。
「俺か?俺はアスラ、六道の覇王アスラだ」
「ほう、随分と大仰な名乗りだな。その名乗りに相応しいだけの力を、貴様は示すことができるのか。それができねば一瞬で命を落とすことになるぞ」
「はは。相応しいか否かは、貴様がその身で知ることになろう」
アスラと牛頭馬頭、人外どうしの壮絶な闘いが始まろうとしていた。
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