徐福②
6/20 本日投稿分です。
洞穴での激闘は続いている。
「ふむ。アスラは手を出さぬか。あの人間どもを余程信頼していると見える」
牛頭馬頭と厩戸たちとの戦闘は、攻防を目まぐるしく入れ替えながらも拮抗していた。それを見ながら、徐福はアスラとの長い因縁を思う。
初めてアスラと対峙したときのことを徐福は鮮明に覚えている。
三面六臂の異形。
神仏をも見下す覇気。
そして圧倒的な破壊力。
毘沙門天の加護により不老ではあるが、不死ではない。一瞬で灰塵にされても不思議ではないのだ。
だが、わしには退くという選択肢は無い。
執念と知恵。
人という身に宿る、たった二つを拠り所に徐福は闘い続けた。
毘沙門天によって授けられた鬼道の術。
鬼を使役し。
亡者の魂魄を操り。
時には生きた人間さえも利用して。
「力で勝てぬならば、知恵で勝つ」
アスラが圧倒的な力で蹂躙しようとするならば、わしは鬼道と知恵でそれを凌ぐ。
わしが罠を張り策を巡らせれば、アスラはそれを正面から力で打ち砕く。
そうした闘いが千年近く続いたのだ。
その状況が変化したのが約二百年前。
ついにアムリタが完成した。
その一報を聞いたとき、わしは狂喜した。
ついに長年に亘る苦労が報われる。
わが敬愛する始皇帝に再び相まみえることが叶うのだと。
だが、そのアムリタをアスラが強奪したという。
わしは我が耳を疑った。何という間抜けな話だろう。
あれほど警戒していたアスラにまんまとしてやられたのだ。
怒り狂う毘沙門天を見て、思わず笑ってしまったわ。
アスラの行方が不明となり、毘沙門天はわしに人間界での探索を命じた。
無論、わしにも否やはない。
わが主君、始皇帝の復活のためにはアムリタがどうしても必要なのだ。
それ以来、アスラの痕跡を求めて各地を巡る、気の遠くなるような旅をした。
西域の砂漠から緑濃き南方、戦乱が続く中原を経て海を越え、この地にたどり着いたのは最近のことだ。
緩やかに連なる大和三山、清らかな流れをたたえる飛鳥川。そこに住まう民の顔はどれも穏やかで、素朴な優しさに満ちていた。
「平和な国、美しき国か」
それは、わしにとっては都合が悪かった。
我が鬼道の源は、怨念、憎悪、人の持つ負の感情なのだ。
この国でわしが力を振るうには、そうした陰の気でこの地を満たす必要がある。
だが、豊かな自然に恵まれたこの国にも、争いの種はあった。
朝廷における物部氏と蘇我氏との政争。
わしはそれを利用することにした。
聞けば、仏教の受容を巡る争いだというではないか。
仏教だと?
実にくだらん。
天界に住まうあの神仏どもを崇め奉るというのか。
神仏どもの卑劣さ、愚劣さを知るわしにとっては笑止の沙汰よ。
だが、まあよい。
わしは廃仏派の物部氏に近づき、策を授けた。
流行の兆しを見せていた疫病、その蔓延を加速させる。そして、蘇我氏による仏教の受容がその原因であると喧伝せよと。
物部氏にとっては蘇我氏の勢いを削ぐ機会となろうし、わしにとっては民に苦痛の種を蒔くことで陰の気を溜めるという目的を果たせるからな。
当初、当主の物部守屋は疫病の流行を制御できるのか半信半疑であった。だが、わしの召喚した瘟鬼を見て、目を剥いておったわ。
そんな中で届いたのが毘沙門天からの情報だった。
わしは、かねてより目を付けていた宇陀野が怪しいと睨んだ。あの地を満たす並々ならぬ霊威は確かに疑うに足る特別なものであったからだ。
案の定、怪しげな洞穴を発見したのが数日前のこと。
わしは物部守屋から数名の手勢を借り受け、怨鬼の種子を仕込んだうえで式神と共に洞穴に送り込んだ。
まさかアスラと遭遇するとは、流石のわしにも予想外のことであったわ。
だが、わしも、おそらくアスラも未だ万全ではない。千年に亘る奴との長き闘いが、この場で終焉を迎えるとはとても思えぬ。
今日のところは小手調べということか。
但し、あの厩戸とかいう皇子。
絆を力と断言し、怪異を家族と言い放つ異能の皇子。
万が一にも大王位に就くようなことになれば、この地を陰の気で満たすという我が企みの障害となろう。
あれだけは殺しておかねばなるまいな。
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