徐福①
本日投稿分です。徐福の過去が語られます。
洞穴の奥、厩戸たちの闘いを静かに見つめる眼。
だが、徐福の本体は洞穴を遠く離れた物部屋敷の一室にあった。
自らの式神を洞穴へ飛ばし、式神の眼を通して戦闘を観察しているのだ。
それにしても、と徐福は思う。
「毘沙門天からの連絡は僥倖であったな」
尊大で横柄な態度は相変わらずだが、毘沙門天のもたらした情報は、確かに有益だったといえる。
曰く、飛鳥の地にアスラの気配あり。
天界からアムリタを強奪したアスラは、毘沙門天の追跡を逃れ、自らを封印することでその存在を隠蔽したと考えられていた。どうやらその封印が解けたらしいのだ。
封印を解除するときの異常な波動が観測され、その発信源が飛鳥の地であると特定された。だが、人間界では毘沙門天をはじめとする天界の神仏の活動に制限がかかる。そこで、徐福に声がかかったというわけだ。
「だが、いつまでも貴様らの思い通りにわしを動かせると思うなよ」
一介の人間に過ぎない徐福が千年近くも生きながらえているのは、確かに天界の神仏の力による。神仏はそれを加護と呼ぶ。
「冗談ではない。加護などであるものか。これは呪いだ。妄執に囚われた男が神仏の呪いによって生きながらえている、それがわしよ」
妄執。
すべてはあの日、敬愛する皇帝陛下から承った勅令から始まった。
「徐福よ、長生不老の霊薬を探せ。我が覇業には無限の時が必要だ。その霊薬は東方の蓬莱にある」
この身が震えた。わが主からの勅令、それがほかの誰でもない、一介の方士に過ぎぬわしに下されたのだ。
なんとしても勅命を果たさねばならない。わしは、固く心に誓った。
だが。だが、だが、だが。
そのわずか数か月後、わが皇帝陛下は崩御された。
「天命、我にあらず」
慟哭した。泣いて、哭いて、涙が枯れ果てても立ち上がることはできなかった。胸を締め付けるような喪失の痛みと身を灼くような後悔の念に押しつぶされ、身動きすることもできずに亡者の如く呻き声を上げ続けた。
そんなわしのもとに、奴は現れた。
毘沙門天。
奴は悲嘆にくれるわしの耳元でこう囁いた。
「人の身でありながら、見事な忠誠心だ。そんな貴様に耳寄りな話がある」
毘沙門天が明かしたのは、わが敬愛する皇帝陛下を蘇らせることができる秘薬、アムリタの情報だった。それはまさに皇帝陛下の求めておられた長生不老の秘薬のことではないか?
毘沙門天は言う。
「アムリタ。それは不老不死を齎すだけではなく泉下の死者をも復活させる秘薬。その秘薬を徐福よ、貴様に分け与えよう」
いま、その秘薬を生成すべく我ら神仏とアスラ族が協働している。
だが、これまで数千年に亘って闘い続けたアスラ族を信頼してよいものか。戦場において互いに欺き合い、傷つけ合い、殺し合ってきたのだ。
特に、アスラ。三面六臂の戦闘狂で六道の覇王を僭称するアスラ族の王。
とても信用できるものではない。
そこで徐福よ。
アスラに戦いを仕掛けよ。
神仏でもなければアスラ族でもない、一介の人間に過ぎぬ貴様であれば、アスラも油断しよう。
なに、必ずしも奴を打ち倒す必要はない。悪巧みをできぬよう、牽制するのが貴様の役目だ。そのために貴様には鬼道の術を授け、不老の加護を与えよう。わが加護の続く限り貴様は不老となる。役目を果たした暁には、必ずアムリタを分け与えると約束しよう。
わしは毘沙門天の話に抗うすべもなく身を投じた。
そして誓ったのだ。
わが尊崇する皇帝陛下。
冥府におわす始皇帝よ。
今しばらくお待ちくだされ。この徐福、必ずやアムリタを手に入れて見せましょう。
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