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刀自古の理

本日投稿分です。

「刀自古よ」

 アスラの呼びかけに、はい、と元気よく飛び出してくる。


「お前の根源属性は、水だ」

「えー、水ですかー」

 何やら不満げだ。

「兄さまと同じ金ではないのですか。兄妹なのに」

「馬鹿もの、根源属性に血など関係ないわ。それに、善徳に比べて非力なお前には金よりも

水が合っている」


「それはどういうことでしょう?」

 きゅるん、と首を傾げる。

「水とは、機に臨み変に応じる、変化の力だ」

「変化の力?」

「うむ、例えば単純な力比べで争えば、お前はこの中で最も非力な厩戸にさえ勝てぬであろう」

 ちらっと厩戸を見てそんなことは無いかもと思った刀自古だが、口には出さない。刀自古は奥ゆかしい女なのだ。


「これを見よ」

 アスラが印を結ぶと足元から水が流れ出す。水は庭石の間を縫うように池に向かって流れていく。

「水は決して争わない。行く道を塞ぐものがあれば自在に流れを変え、目的地へと向かっていく。力に力で対抗するのではなく、柔軟に変化することで対応する。これこそが水の力だ」


 次にアスラは刀自古と正対する。

「では、おれに向かってお前の最高の拳を撃ち込んでみよ」

 言われて刀自古の雰囲気が一変する。前回は一発も入れることができなかった。今度こそはと意気込んで腰を落とす。


「行きます」

 轟、と正拳が唸りを上げる。

 だが当たらない。

 さらにそのまま裏拳、掌底、回し蹴り。

 いずれも紙一重で躱されていく。

 ここまでは以前と同じ。

 だが刀自古には秘策があった。

 拳法の師である池辺氷田から伝授された暗器を使う戦闘だ。

 氷田からは稽古での使用を固く禁じられているのだが、アスラに一泡吹かせるためには仕方ないと割り切った。なに、寸止めすれば良いのだ。驚くアスラの顔がどうしても見てみたい。


「やあっ」

 乾坤一擲、手中に隠し持った流星錘をアスラの顔面に向かって投擲する。


 ブンッとアスラの姿がブレたかと思うと、流星錘は空しく通り過ぎていく。

「いけないっ」

 慌てて引き戻す流星錘と同じ速さでアスラが懐に飛び込んでくる。


 ぴたり。

 アスラの指先が刀自古の額にあてられた。

 「くっ」悔しさに唇を噛むが、刀自古の完敗だった。


「なぜおれに触れることさえできぬのか、お前にわかるか?」

 悔しさを押し殺して刀自古が答える。

「刀自古の技が未熟だからですか?」


「違う。突き、蹴り、そして暗器術。一つ一つの攻撃には見るべきところがある」

「ではなぜ当たらぬのです?」

「お前の攻撃ひとつひとつに意図が見えるからだ。意図のある攻撃は読みやすく躱しやすい。意図が外れれば焦りを生む。それが技を鈍らせる」

「意図?」

「そうだ。水の力の本質は、無心。意図や企みを排し、無心になることで自由を得る。いかなる状況にも対応できる柔軟さを生む。無心こそが自在な変化を可能にするのだ」


「では、どうすれば無心を会得できるのですか?」

「まずは一つ一つの技を極めることだ。そうすることで、意図せずとも最適の技を繰り出すことができるようになる」

 そこでアスラは悪い笑顔を浮かべた。

「型稽古を千回、それを休むことなく毎日繰り返せ」

「ええーっ」

 刀自古の悲鳴に厩戸と善徳の吹き出す声が重なった。


「これから7日の後、宇陀野の洞穴へと向かうことにする」

 アスラの言葉に決意を新たにし、それぞれ修練に向かう3人であった。


お読みいただきありがとうございます。

火が厩戸、金が善徳、水が刀自古で土が天燈鬼と龍燈鬼。あと残っているのは木ですが、、、

木については近日登場予定です。

評価、ブックマーク、レビュー、感想などぜひお願いいたします。

明日も1話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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