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使役するもの

本日投稿分です。

「では、その瘟鬼こそがこの疫病の原因ですか?」

 淡々と語る厩戸であったが、善徳にはその声に潜む恐れが伝わってきた。そのような悪鬼にどう対処すればよいというのか。怪異とは因縁浅からぬ厩戸であってさえ、解決の糸口を見出すことができないのだ。

 だが、それでも問わずにはいられない。

「どうすれば退治できましょうか?」

 

「待て、善徳」

 まあ落ち着けとアスラは言う。


「どうも妙なのだ」

「妙といいますと?」

「うむ。瘟鬼は、そもそも大陸に住まう怪異だ。それが何故、海で隔てられたこの国で跋扈しているのか」

 アスラの言葉に善徳は首をひねる。と、刀自古がはい、と手を上げる。

「泳いで渡ったのではありませんか?」

「ふざけたことを言うでないわ。そんなことがあってたまるかよ」

 鼻で笑われた刀自古だが、気にしない。気にするものですか、刀自古は寛大な女なのだ。


「本来、怪異や人外、妖怪などは、土地に執着する。余程のことが無い限り、棲み処を変えることはない。なあ、天燈鬼よ。貴様らもそうであろう?」

 部屋の隅に居た天燈鬼が頷く。

「ましてや海を越えてまで移動するなど到底考えられぬのだ」


「では何故この飛鳥の地に?」


 ふむ、とアスラは目を閉じ、何かを思い出そうとするかのように眉間にわずかな皺を寄せる。やがてゆっくりと目を開くと小さく頷いた。


「術者がいるな」


「術者ですか?」

「ああ、おそらく鬼道を用いる術者がいる」

「鬼道?」

 初めて聞く言葉に厩戸たちは戸惑いを隠せない。


「鬼道は大陸に古くから伝わる外法の術だ。鬼道には下級の鬼を召喚して使役する術があることを思い出したわ」

「では、その術者を倒さぬ限り、瘟鬼は湧いて出てくると?」

「いや、そうとも限らぬ。瘟鬼の本拠である大陸で術を行使するなら兎も角、遠く離れたこの地に召喚するとなればおのずと限界があろう。都大路の瘟鬼どもを滅せば、疫病の流行も鎮まるであろうな」


「ですがアスラどの」

 厩戸皇子の憂い顔は晴れない。

「瘟鬼を退治したとて、馬子どのや病に苦しむ民草を救うことはできぬのではありませんか?」

「無論、そうだ。すでに疫病に侵された者については、運を天に任せるよりほかあるまいな。だが、瘟鬼の撒き散らす疫病に罹ったものは、ほぼ助からぬ。極めて分の悪い賭けになる」


「それでは都の民草の半数が死に絶えることになりましょう。敏達大王や馬子どのも助からぬとなれば、この国の政を司る芯が消え去ることになる。国が滅びてしまいます」

 厩戸の必死の訴えに、アスラはフンと鼻を鳴らす。

「古来、人間界では様々な国が誕生と亡びを繰り返してきたのだ。それを知らぬ貴様でもあるまい。おお、なんなら新たな国の王となってみるか?この国が滅びた後に、貴様の理想とする国をつくるのだ。怪異どもと人間が共存する、貴様の望む国を」


「冗談ではありません!」

珍しく厩戸が声を荒げる。

「この国を理想の国に近づけることこそ我が本望。国が滅びてしまっては理想も何もないのです」


「ほう、そこまで言うのなら、俺に考えがないでもない」

「と言いますと?」

 有効な手立てがあるというのか。であれば、なんとしてもそれを聞き出さねば。勢い込んで問う厩戸を見て、アスラは意味ありげに笑う。


「アムリタ。それがこの国を救う唯一の手立てだ」


お読みいただきありがとうございます。

評価、ブクマ、感想、レビューなど、ぜひお願いいたします。

作者の励みになります。

明日も1話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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