刀自古とアスラ
本日投稿分です。
掛かり稽古を終えた善徳が、龍燈鬼とともに戻ってくる。
「おい娘。お前の兄もなかなかやるであろう?」
アスラの言い様がいちいち刀自古の気に障る。
「当たり前です。兄さまの力は刀自古が誰よりも知っております。それより、あなたは本当に兄の師なのですか?」
刀自古の言葉にアスラは凶悪な笑みを浮かべる。
「ほう、もしやおれの力を侮っているのか」
しかし刀自古は怯まない。
「どう見ても兄さまより強いとは思えませぬ。兄さまよりも劣る者が師を名乗るなど、刀自古は到底認められません」
アスラの笑みがさらに深くなる。
「ほう。見た目でしか判断できぬとは、愚かなことよ。では娘、おれと立ち会ってみるか」
「へえ、面白いですね。ですが刀自古は剣を使えませぬ。剣を使えぬ刀自古と立ち会ったとて、あなたの強さを証明は出来ぬでしょう?」
ふん。気の強い娘だ。だが嫌いではない。試してみる価値はあるだろう。
「お前、拳法を使うようだな。拳法での立ち会いでも、おれは一向にかまわぬぞ。お前程度を相手にするのに剣など必要ないからな」
その言葉が刀自古の負けん気に火を付けた。
拳法を得意とする自分に対し、素手で相手をするというのだ。
刀自古の眉が跳ね上がる。
「後悔しても知りませんから!」
瞬間、刀自古の姿が消えた。
速い。
地を蹴った刀自古は、一息でアスラの懐へ潜り込む。細身の体をばねのように捻り、鋭い正拳突きを放った。
空気が裂ける。
だが。
「いい踏み込みだ」
アスラは半歩、身体を逸らしただけだった。
拳が頬先を掠める。
そのまま刀自古は止まらない。
肘打ち、回し蹴り、掌底、怒涛の連撃を畳み掛ける。
速い、鋭い、迷いがない。
だが、当たらない。
アスラはまるで流れる水のようにそれを捌いていく。
受け止めない。
弾かない。
最小限の動きで軌道を外し、紙一重で躱し続ける。
刀自古の瞳に焦りが滲んだ。
当たらない!
確かな手応えが一度もない。
「足運びは悪くない。重心も安定している」
ひょい、と拳を避けながら言う。
「だが、力む癖があるな。打つ瞬間、肩がわずかに上がる」
見抜かれている。だが臆さない。
さらに踏み込んで、低い姿勢からの足払い。
だがアスラは軽く飛びあがり、そのまま空中で体をひねった。着地と同時にその指先が刀自古の額に触れる。
ぴたり。
ただそれだけ。
だが、刀自古は凍り付いた。
もし実戦なら今の一瞬で喉を裂かれていてもおかしくはない。
刀自古は唇を噛んだ。
それでも刀自古は退かない。
「まだです!」
再び踏み込む。
その目から、もう怒りは消えていた。
代わりに宿っているのは強者へ挑む武人の光。
「ふん。やはり面白い」
アスラは刀自古の拳撃を華麗にかわしながら、わずかに口元を緩めた。
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