鍛錬
本日投稿分です。
「おい、善徳よ、ずいぶんと気合の入った妹ではないか。お前よりよほど肝が据わっておるわ」
アスラに言われて善徳は嫌な顔をする。
「笑いごとではありません」
「ははは。おい、娘。兄の鍛錬に興味があるのなら、こちらで見学していけばよい」
偉そうな物言いは気に入らないが、鍛錬の様子は見てみたい。
刀自古は厩戸、アスラと並んで兄の鍛錬を見学することにした。
「とんだ邪魔が入ったが、掛かり稽古を再開せよ」
いちいち癇に障る言い方をする。文句を言おうかと思ったが、ぐっと我慢し大目に見ることにした。刀自古は寛大な女なのだ。
アスラの声に、善徳は再び構えを取る。
対峙するのは龍燈鬼。
人の背丈を遥かに超える巨体に青黒い肌。片手に握られた金棒を振れば、轟と烈風が巻き起こる。
「参るぞ、善徳!」
低く唸るような声と同時に龍燈鬼が迅速の踏み込みを見せる。
大地が揺れ、轟風のような一撃が横薙ぎに迫った。
善徳は咄嗟に剣を構える。
激突した瞬間、腕が痺れた。
受けきれずに数歩後退するが、すぐに体勢を立て直す。
「甘い!」
龍燈鬼が追撃する。
豪快に振り下ろされた金棒、善徳は横に飛んで避ける。地面に叩きつけられた金棒が土煙を巻き上げる。その隙を突き、善徳は一気に懐へと踏み込んだ。
鋭い斬撃。
だが、龍燈鬼は牙を見せて笑う。
「良い踏み込みだ」
剣を金棒で受け流し、そのまま善徳を押し返す。善徳は転がるように距離を取った。
早朝の庭に、乾いた土の匂いと金属の打ち合う音が響く。
火花が散り、衝撃が空気を震わせた。
刀自古はいつの間にか怒りも忘れて見入っていた。
土煙の中で打ち合う二つの影。
人と鬼。
本来ならば並び立つことなどあり得ぬ存在だ。
だが、真正面から向き合い、力をぶつけ合っている。
その光景に、刀自古の胸は不思議に高鳴った。
「すごい」
汗にまみれ泥だらけになりながら、それでも前に出る善徳の背を、刀自古は憧憬と共に見つめていた。
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