蘇我屋敷②
本日は1話のみの投稿となります。
「で、その従者がどうかしたのか」
「は。薬猟に出発する際には、厩戸どのは単身で、従者を従えておりませんでした。ところが宇陀野に戻ったときには従者が手綱を引いておりました」
「ふむ。途中で合流したのではないのか?」
「そうかもしれませぬ。ですが、もうひとつ気になることが」
「うむ、申してみよ」
「は。厩戸皇子が従者を連れて姿を顕したその時」
そこで言葉を切ると、司馬達等は一段と声を潜めて馬子に告げる。
「宇陀野に集う精霊どもが、またしても騒ぎ始めたのでございます」
司馬達等が事の次第を報告する。
薬猟の最中に異常な波動を感知したこと。
精霊たちがにわかに騒ぎ始めたこと。
それ以降、精霊たちの力が格段に増していること。
厩戸が従者を従えて現れた時から、精霊たちが再び興奮状態となったこと。
「では、その従者も呪言師であると?」
「いや、そうではありませぬ」
馬子の問いに司馬達等は首を振る。
「われら呪言師の力とは、精霊たちと交感する力。それによって精霊の持つ様々な能力をわが身に宿すことができまする。」
「ふむ。さすれば精霊の力を借りる能力とでも言えば良いか」
「おっしゃる通りでございます」
呪言師の能力については馬子もある程度の知識は持っている。その貴重な力による助言に助けられたことも一度ならずあったからだ。
「では、その従者の力とはどういうものなのだ」
その力をどう表現すれば良いか。
それを解き明かす糸口は、精霊たちにある、と司馬達等は考える。
精霊たちの歓喜にも似た興奮状態と突然の能力向上。
その原因があの従者にあるとするならば。
「いわば、精霊に力を付与する能力。これがひとつ」
「ひとつ?ということはほかにもあるというのか」
眉を顰めた馬子に、司馬達等は淡々と告げる。
「穴穂部皇子どのが厩戸皇子に斬りかかった時、あの従者が何やら印を結んだように見えたのです」
「印を結んだ?」
「は。あれは何らかの術を行使するための印であろうと思われます。善徳どのが介入したことで術の発動までには至らなかったようですが」
果たしてどのような術なのか。馬子の問いに、司馬達等は首を振る。
「わかりませぬ。ただ、大陸系の術には印を結ぶことを発動の契機とするものがあると聞きます」
本朝きっての呪言師たる司馬達等にして、未知の術と言わしめるか。
異能の皇子に未知の術師。
蘇我氏としてどう対処すべきか。
思考を巡らせる馬子。その姿を見つめながら、司馬達等は動乱の時代の到来を予感していた。
お読みいただきありがとうございます。
「覇王との邂逅編」、本話にて終了となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
「覇王との邂逅」は本作の序章という位置づけです。次回から、いよいよ物語が動き始めます。
ここで皆さまにお詫びとお願いを。
まずお詫びからです。
これまで毎日2~3話の投稿を行ってきましたが、次章からは1日1話の投稿が基本となります。また本業との兼ね合いで投稿をお休みする日もあると思われます。
そういう変則的な投稿となることを、まずはお詫びいたします。作者の力不足です。申し訳ありません。
次にお願いです。
変則的な投稿となりますので、可能であれば「なろう」のブックマーク機能の利用をお願いいたします。また作者の尻を叩くw意味で、評価の星、感想、レビューなどぜひお願いいたします。
明日からの新章、まずは本作のヒロイン候補が登場します。
今後とも、飛鳥異聞をよろしくお願いいたします。
長文、失礼いたしました。




