薬猟評定③
本日2話投稿予定の1話目です。
2話目の投稿は、夜、21時以降となる予定です。
「蘇我馬子どのに申し上げる」
評定衆の頭が、壇上の馬子に対して言上する。宇陀野薬猟の評定結果の報告が始まった。
壇上には薬猟の成果たる鹿茸が並べられている。その中でもひときわ異彩を放っているのが蘇我善徳の名札が置かれた鹿茸だ。大きさといい、形といい、文句のつけどころがない。
「いずれも見事な鹿茸ではありますが、大王に献上すべきは、蘇我善徳どのの狩った鹿茸であるというのが評定衆の総意であります」
評定衆の頭の言葉に、馬子は満足げに頷いた。無論、周囲に異論をはさむ者などいない。
「おう、確かに立派な鹿茸であるな。だが、それ以外の鹿茸もまた見事なものだ。参加した皆がそれぞれにその能力を存分に示したと言えよう。まこと、我が一族の未来は明るいな」
蘇我馬子の言葉に一同が沸き立った。
「なんという茶番だ」苦虫を嚙み潰した表情の池辺氷田に司馬達等は苦笑する。
「そう言うでない。この場では致し方のないことだ。それに見よ、厩戸どのは一向に気にする様子も見せぬ。立派なものではないか」
言われて厩戸皇子を見れば、確かに不平や不満の表情はなく、静かに佇んでいるばかりだ。
「ううむ」そう唸ると氷田は黙り込むが、不満な表情は変わらない。
それを見て、達等はまた苦笑する。まったく、真っすぐな性情も善し悪しだ。贔屓の引き倒しということもある。ここは黙って見ているのが上策というもの。下手に騒ぐことはかえって厩戸どのの意に反することにもなろう。
「ご本人が何もおっしゃらない以上、我らにできることはあるまいよ」
そう言われても、腹落ちできない氷田であった。
壇上では、すでに善徳に対する褒賞の授与が発表され、式典も終わりに差し掛かっている。最後に再び馬子が壇上に登り、締めの言葉を発しようとしているその時だった。
「馬子どの、しばし待たれよ」
壇上で立ち上がったのは、穴穂部皇子である。周囲があっけにとられる中、穴穂部皇子は中央まで進み出る。
「まずは馬子どのにお祝いを申し上げる。この薬猟で蘇我一族の若人たちが実に素晴らしい成果を上げられた。まことに喜ばしいことでありますな」
それを見ていたアスラが厩戸に問いかける。
「おい、なにやら嫌な笑いを浮かべてこちらを見ているあの男はいったい何者だ」
「あの方は穴穂部皇子。われの叔父にあたる方です」
「ほう」アスラは半眼で穴穂部を睨んでいる。
「殺すか?」
「いやいや、お待ちください。こんな場所で殺生はおやめください」
慌ててさえぎる厩戸皇子。
知らないところで命の危機に瀕していた穴穂部皇子であった。
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