アスラ
本日2話投稿の2話目です。
宇陀野で野営した後、アスラは厩戸に同行している。その間、厩戸が鹿茸を狩るのを横目で見ていた。どうも厩戸には鹿茸の薬効を視ることもできるようで、それもアスラにとっては興味を惹かれることであった。
アスラがこれまでに見てきたどんな人間とも、厩戸は違っていた。果たしてどのような因果を背負って生まれてきたのか、まことに興味が尽きない。
興味を惹かれるかどうか、面白いかどうか。
それがアスラの行動原理だ。
正しいか正しくないかなどということは、アスラにとっては意味のないことだった。
正義や道徳など、人の世という限られた世界での価値観にすぎない。
六道の覇王たるアスラは傲岸不遜に振舞うのみだ。
「おい、厩戸よ」
アスラは漆黒の髪を頭巾で覆い、天衣から筒袖の袍へと衣装を変えている。
「お前、いやな奴だな」
厩戸が振り返ると、アスラが悪い顔で笑っている。
「その鹿茸、そのまま評定にかけるつもりか?」
厩戸が頷くと、アスラが大げさに肩を竦めた。
「お前、解っているのだろう?それを凌ぐ薬効を持つ鹿茸などないことを。それを告げずに評定にかけるとは随分と悪趣味ではないか。見た目は貧相な鹿茸が尋常ならぬ薬効を持つことを見抜けるものなどおるまいに」
「果たしてそうでしょうか」
アスラの言葉に厩戸は異を唱える。
「蘇我には優れた才を持つものが多いと聞きます。例えば、あの二人」
厩戸の視線の先には司馬達等と池辺氷田がいた。
「ふむ」アスラは目を眇めて司馬達等たちを観察する。
「なるほど、なにやら異能の持ち主のようだな」
「わかりますか」
「うむ、あの者共の周りにこの地の精霊が集っている。あれは何者か?」
「大陸由来の呪言師、とのことです」
ふん、とアスラは鼻を鳴らす。
「では、あの者たちが鹿茸の薬効を見抜き、それを進言することでお前が褒賞を手にするということか」
それを聞いて、厩戸は苦笑いする。
「いや、そうはなりますまい。大王への献上物ともなれば、見栄えが大事。この鹿茸が選ばれることはありますまい。ただ、薄切りに加工してしまえば見栄えは関係なくなります。献上の式典には見栄えするものを用い、実際には薬効の高いものを用いる。たぶん、あの呪言師がそう献策するはずです」
「ほう。お前はそれでよいのか」
「無論です」
「厩戸よ」
「何でしょう」
「お前、やはり嫌な奴だな」
そう言うと、アスラは呆れたように肩を竦めた。
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