薬猟評定②
本日2話投稿予定の1話目です。
2話目は18時頃投稿予定です。
蘇我馬子をはじめとする一族の主だった者たちが、本陣に集まって評定の結果を待っていた。成果の申告を終えた若者たちも続々と集まってくる。その本陣には、司馬達等と池辺氷田の姿もあった。
「司馬どの、やはり善徳どのの狩った鹿茸が目を引くな」
壇上にはそれぞれの成果たる鹿茸と、それを狩った者の名札が掲示されていた。見れば善徳の名が掲示された鹿茸が、大きさといい姿かたちといい他を圧倒しているように見える。
だが、司馬達等は頷かない。
「ほかに気になる鹿茸があるとでも?」
「うむ、あの厩戸どのの名札が付いた鹿茸を見よ」
言われて見てみるが、何か違いがあるようには見えない。むしろ、他の鹿茸に比べても見劣りがする。何が司馬達等の興味を引いたのか、皆目見当がつかない。
首をひねる氷田だったが、やはりどう見ても特別な鹿茸には見えないのだ。
「よいか、氷田よ。確かに大きさといい、形といい、善徳どのの狩った鹿茸は見事なものだ。だが、鹿茸の価値は大きさや形で決まるものではあるまい」
「では、何で決まるというのだ。厩戸どのの鹿茸に、どのような価値がある?」
「薬効だ」
「薬効?」
「うむ。薬の価値とはその効き目にあるのは自明。厩戸どのの狩った鹿茸には、おそらく他の鹿茸の数倍の薬効があるはずだ」
「ほう、さすが司馬どの、一目で鹿茸の薬効を見抜くことができるのか」
感心して頷く氷田に、司馬達等はそれは違うと首を振る。
「馬鹿を言うでない。薬師でもない我に鹿茸の価値などわからぬわ。ただ、精霊たちが囁くのだ。あの鹿茸には大変な薬効があるとな」
「ふうむ。では、厩戸どのにはその価値がわかっていたということか」
「その通りだ。氷田よ、お前も言っていたではないか」
「俺が?何をだ?」
不審げに問う氷田に、司馬達等は肩を竦めて言う。
「厩戸どのには、常人には見えぬものが見える」
「おお、そうか、そうだな。うむ。さもありなん。さすが厩戸どのだ。褒賞を得るのは厩戸どので決まりということか」
なぜか嬉しそうな氷田である。
だが司馬達等は苦笑いして否定する。
「いや、そうはなるまい。褒賞は善徳どののものであろうよ」
「はあ?なぜじゃ。おかしいではないか」
色をなして抗議する氷田。どこまでも真っすぐな男である。
「今回の鹿茸は大王への貢物なのだ。当然、見栄えが良いに越したことはない。そもそも薬効の高低など誰も判断は出来ぬであろうしな。また、蘇我氏の嫡男が狩ったという事実も蘇我にとっては重要だ」
「なんだそれは。それでは厩戸どのがあまりに不憫ではないか」
「そうかな。厩戸どのはそうは思っておられぬのではないか」
司馬達等の視線の先には、誰とも馴れ合わず独り立つ厩戸皇子の姿があった。
「あのお方にとっては蘇我の褒賞など何の価値も持たぬのではないか。むしろ、早くこの場を離れたがっているようにみえるのだが」
納得いかぬ、と憤慨する池辺氷田の横で、司馬達等は厩戸皇子をじっと見つめていた。
実はこの時、司馬達等にはもう一つ、気になることがあったのだ。
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