穴穂部皇子
遅くなりました。
本日2話投稿の2話目です。
薬猟の評定を見つめるもう一つの眼差しがあった。
穴穂部皇子である。
早くから宇陀野の本営に詰めていた穴穂部皇子は、次々と申告される薬猟の成果を退屈そうに眺めていた。蘇我の一族に連なるとはいえ、ほとんどは知らぬ顔である。本営に持ち込まれる鹿茸にも大差はない。そもそも誰が褒賞を得るかなどということに興味がないのだ。
穴穂部皇子の関心は、厩戸にしかない。
さらに言えば、厩戸の従えている神馬にしかなかった。
その神馬にまたがり疾駆する自分の姿を思い浮かべて、穴穂部皇子はほくそ笑む。
さて、どうやって厩戸からあの神馬を取り上げようか。
穴穂部皇子が妄想を膨らませていると、薬猟の評定衆からひと際大きな感嘆の声が聞こえた。見ると、蘇我善徳が申告を行っている。善徳が申告した鹿茸は、他とは一線を画す立派なものであった。
ふむ。馬子どのの跡継ぎか。なかなかに見どころがあるな。われが大王となった暁にはせいぜい働いてもらおうか。
そんなことを考えていると、評定の場に黒駒と雪丸を従えた厩戸皇子が姿を現した。
思わず身を乗り出す穴穂部皇子。
あの引きこもり、どれほどの鹿茸を狩ったのか。
穴穂部皇子が見つめるなか、厩戸皇子が自らの狩った鹿茸を評定衆に差し出した。受け取った評定衆が秤で計量を行う。
「なんだ、この貧相な鹿茸は」
突然の大声に評定衆が驚いて振り返ると、穴穂部皇子が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
「おお、厩戸ではないか。この貧相な鹿茸を狩ったのは貴様だったか。そのご立派な馬と猟犬を従えながら、この程度の鹿茸しか狩れぬとは。まさに宝の持ち腐れとはこのことよ」
悪しざまに罵る穴穂部皇子であったが、厩戸皇子は表情一つ変えずに静かに一礼すると、背を向けてその場を後にした。
ふん。抗弁する気概さえ持たぬか。まあ良い。いずれあの神馬は俺のものだ。引きこもりは引きこもりらしく、部屋の隅で震えているのが分相応というものよ。
背を向けて去っていく厩戸皇子を見て満足げに頷くと、穴穂部皇子は結果発表の場である本陣へと向かった。
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