薬猟評定
本日2話投稿予定の1話目です。
2話目の投稿は、18時~19時を予定しています。
宇陀野に構えた本陣に、次々と帰参する薬猟の参加者たち。
ある者は誇らしげに、またある者は疲れ切った表情で。
それぞれに2日間の薬猟の成果たる鹿茸を手に、本陣で待つ担当官に申告を行う。
善徳もまた自らの成果を手に申告へと向かう。
初日は全く猟を行えなかったが、優秀な従者たちを従えた善徳は、二日目に十分な成果を得ることができた。
さて、厩戸どのは、と周囲を見渡すと、ちょうど申告に向かう厩戸に気付いた。その後ろには黒駒(天燈鬼)の手綱を引く小柄な従者の姿もある。おや、あれは誰であろうかと目を凝らすと、質素な狩衣を身に纏ったアスラであった。善徳に気付くと悪い顔で微笑んだ。
あわてて目を逸らし、知らん顔で担当官の方へと歩みを進める。
さて、厩戸どのの成果はいかほどか。
天燈鬼や龍燈鬼を従えている厩戸どのだ、さぞや立派な鹿茸を狩ったであろうなと遠目にその手元を注視する。ところが意外なことに厩戸が手にしているのは、やや小ぶりな鹿茸だった。善徳の狩った鹿茸の半分ほどの大きさに見える。他の者が申告した鹿茸に比較しても見劣りがする。
ああ、これは手心を加えたな。
よほど目立ちたくないのであろうな、と善徳は察した。
であれば、善徳もまた、厩戸との約定を守らねばならない。
あらためて心に誓う善徳であった。
次々と参加者が申告を行い、その度にその成果を測る評定が行われる。
その評定を見守る人々の中に、司馬達等と池辺氷田の姿があった。
「司馬どの、なにやら浮かぬ顔だが、まだ精霊は元に戻りませぬか」
薬猟の最中に感知した異様な波動と、おそらくはそれによる精霊の興奮。司馬達等が懸念していた大事には至らず、薬猟自体は無事に終了した。だが、池辺氷田には、司馬達等が未だ警戒を解いてはいないように見えた。
「いや、戻っている。戻ってはいるのだが」
「気になることでもおありか?」何かしら言い淀む司馬達等に氷田が問いかける。
「うむ。どうも精霊の力が増しているように思えるのだ」
「力が増していると?何故そのようなことが?」
すると司馬達等は適当な小枝を拾い、地面に五芒星を描いてみせる。
「われら呪言師は、精霊を大きく五つに分けて考える。いわゆる、五行だ」
「おお、木火土金水であるな」
「この世のすべてはこの五つの要素で成り立ち、それらが互いに影響しあい、変化循環している。精霊もまた同様だ」
司馬達等は、五芒星の頂点にあたる部分を指し示す。
「ところが、どういうわけか火の精霊の力が突出して強くなっているのだ」
「ほう、するとどうなるのだ?」
「五行の相生相克の関係がより顕著になる。すなわち、調和を保つ力が働くことにより、それぞれの精霊力が増大する」
「それで精霊の力が増していると?」
その言葉に司馬達等は黙って頷く。
なぜそのような事が起きたのか、それが経験豊かな司馬達等にもわからない。
だが、この事態が尋常ではないことは明らかだ。あの異常な波動によって、何かが大きく動き始めているような、そんな予感があった。
それがこの現世にどのような影響を及ぼすのか。
司馬達等は、蘇我一族は、あるいはこの国は、どう対処すべきなのか。
だがそれは、日の本有数の呪言師たる司馬達等にして、予測不可能なことであった。
お読みいただきありがとうございます。
感想、ブクマ、レビューなどぜひお願いいたします。
明日も2話投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




