厩戸とアスラ②
本日2話投稿予定の1話目です。
2話目は18時頃投稿予定です。
アスラは右手の金色の炎を自在に繰りながら、厩戸に語り掛ける。
「そもそもこれは、人には過ぎた力だ。この力を欲する者は多いであろう。では、なぜ欲するか。この力をもって何を為すのか。それこそが重要なのだ。その理由が明確で強固なものでなければ、この力を使いこなすことは出来ぬ。むしろ望む者自身を焼き滅ぼすことになる」
「ゆえに問う。それでもお前はこの力を望むのか。この力を使いこなす覚悟がお前にはあるのか」
その問いにすぐに答えることはせず、厩戸は目を閉じて自分自身に問いかける。
力を望む理由ははっきりしていた。だが、その力に溺れることなく、自分の思う目的のために正しくそれを行使することができるのか。その覚悟が自分にあるのか。
やがて、ゆっくりと目を開き、挑むように言い放った。
「われは、それを、望む」
アスラの眼が細められる。
「続けよ」
「われには大切な家族がいる。われをこれまで守り育ててくれた家族です」
そう言うと、天燈鬼と龍燈鬼を振り返る。二体の鬼は、厩戸を心配そうに見つめている。
「怪異、人外、魑魅魍魎。世の人からは畏れられ、忌み嫌われるものども。だが、大切なわれの家族です」
少し言葉を探し、厩戸は続ける。
「われの家族は人外ですが、われは唯の人なのです。それゆえ、われは人との関わりを断つことはできませぬ。やがてこの国の大王となるかもしれぬ父がおり、母がいて、母の出自の蘇我という一族もある」
息をつめて聞いていた善徳が、その言葉に大きく頷いた。
「ですが、われはこれからもわれの家族と共にありたい。人と関わりながらも人外の家族とともにある。しかしその道は、人から見れば理解できぬ道でしょう。疑念を持たれ、恐怖され、排除されるかもしれない」
「ほう。ではこの力によってお前の家族を迫害する人間どもを滅するか」
「厩戸どの!」アスラの言葉に善徳が驚きの声を上げる。
「そのようなことを考えてはおりませぬ」
厩戸は善徳を振り返って苦笑する。
「われがわれの望む道を行き、それを人に認めさせるには、われ自身が強くあらねばならぬのです。力を持ち、それを正しく行使することで、われは人からも人外からも認めてもらうことができる。人と人外の間に立つ者として、われの望む道を行くことができる。」
厩戸の眼差しに決意の色を見て、アスラの口元がゆっくりと弧を描く。
「なるほど、それがお前の覚悟ということか」
「まあ、お前がこの力で人間どもを滅ぼすというなら、それはそれで構わんぞ。善悪などというものは所詮は人間界のみで通用する規範にすぎぬ。その程度のものを後生大事に抱え込んで行きたい道を行けぬようでは本末転倒であろうしな」
「アスラ!」善徳が非難の声を上げるのに、アスラは笑って肩を竦める。
「まあ良いわ。いずれいまのお前ではこの炎を扱うことはできぬ。特別な修練が必要となる。しばらくはお前の屋敷に住まわせてもらうことになるが、構わんな?」
「無論です」
「うむ。そうと決まれば長居は無用、行くとしようか」
そう言うと、アスラは洞穴の出口へと向かって歩き始めた。
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