厩戸とアスラ
本日、2話更新の2話目です。
天断を受け取った善徳に、アスラが声をかける。
「おお、そうだ。小僧、もう一つ条件がある」
それを聞いて善徳は嫌々振り返る。
「おい、アスラとやら。今さら返せとは言うまいな」
「おう、それだ、それ。貴様、俺のことをアスラとやらと呼んでおるが、仮にも俺は貴様の剣の師だ。これからはアスラどのと呼べ」
「なんだと!」
善徳は露骨に嫌そうな素振りを見せる。仮にも名門蘇我家の嫡男たるこの俺が、このような得体の知れぬ輩に「どの」をつけるだと?
「どうした。できぬなら返して貰うぞ。ほれ、アスラどのと呼ばぬか」
「うぬぬ。あ、アスラ、どの」
そのやり取りを見ていた厩戸が、思わず笑みを漏らした。
「むむ、龍燈鬼よ、滅多に笑わぬ厩戸が笑っておるわ」
「おお、天燈鬼よ、珍しいこともあるものだ」
その厩戸にアスラが歩み寄る。
「さて、厩戸よ。お前には折り入って話がある」
アスラは厩戸の胸のあたりを指差した。
「お前の魂に刻んだ火界の理についてだが」
そう言われて厩戸も自らの胸のあたりに目を落とす。
「もしや、これもお返しせねばなりませぬか」
やや残念そうに厩戸が言うと、アスラはそうではないと首を振る。
「一度刻んだ火界の理を消すことは、さすがの俺にもできはせぬ」
「では何か問題でも?」
うむ、と頷くと、アスラはその右の掌に金色の炎を顕現させた。
「見よ。これは先ほど夜叉王を葬った炎だ。火界の理を強化すれば、この金色の炎を自在に繰ることができる」
金色の炎はアスラの掌の上でまるで意思を持つかのように様々に形を変える。
「われもその金色の炎を繰ることができましょうや?」
「いまは無理だな」
「では、どうすれば?」
アスラはそう問う厩戸に正面から向き合う。
「それに答える前に、俺はお前に問わねばならぬ」
厩戸もまた目を見開き、アスラとまっすぐに向き合う。
「お前はそれを望むのか?」
短く、しかし重い問いだった。
厩戸は思わず黙り込む。
戦いの跡に残るかすかな熱を宿した静寂の中で、二人は向かい合っていた。
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