善徳とアスラ
本日、2話投稿予定の1話目です。
「小僧、その天断、貸してやらんでもないぞ」
「なに、まことか!」善徳は差し出した天断を素早く引き戻して胸に抱く。
「おう、俺は嘘など言わぬ。だがな、貸すには条件がある」
「条件だと?」
「そうだ。ちょっとそれを貸してみろ」
そう言われて、善徳は嫌々ながら天断を差し出す。受けとったアスラは天断を鞘から抜くと、正眼に構える。
アスラは静かに息を吸い込んだ。そしてゆっくりと舞い始める。その足運びは軽く、土の上に足跡すらも残さない。天断が空を切るたび、鮮やかな光の軌跡が浮かび上がる。
右から左へ。下から上へ。
刃は滑るように移ろい、金糸を空に縫い留めるような軌跡が幾筋も重なっていく。
剣が躍る。
風が絡む。
光が揺れる。
そして、最後の一振り。
天断の刃が上空へ向けて蝶のように舞い上がり、静止した。
やがてアスラは、すっと息をつき、静かに天断を鞘に収めた。
その一挙手一投足を、善徳は息をのんで見つめていた。
なんという美しさ。そしてその美しさは確かな技量に裏打ちされていることを善徳は理解した。
理解してしまった。
アスラと自らとの間にある、圧倒的な技量の差を。
「良いか、小僧」
善徳を正面から見据えてアスラは続ける。
「天断の真の力を引き出すには、貴様はまだまだ力不足だ」
善徳は悔しそうに頷く。
「だがな、先ほど申したように、貴様の魄は並ではない。鍛え方次第では天断にふさわしい技量を身につけることも可能であろう」
「なに、それはまことか?」善徳が目を輝かす。
「だがな、並みの鍛え方では身につけることはできぬ。そこでだ」
そう言うと、アスラは傲然と胸を張る。
「この俺が貴様を鍛えてやろう。それを受け入れること、それが天断を貴様に貸し与える条件だ」
「なんだと!」
ううむ、と唸る善徳は唸る。
が、迷っていたのは一瞬であった。
「わかった、アスラとやら。お前の指導を受け入れよう」
それを聞いたアスラは満足そうに頷き、天断を善徳に手渡した。
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