アスラ②
本日3話投稿の2話目となります。
3話目の投稿は、18時~19時頃を予定しています。
「生きとし生けるものが循環する六道、すなわち天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道。六道の覇王たる俺はその何処にも顕現することが出来る。だが、この人間道においてのみ、本来の力を発揮できる時間は限られる」
「人間道においてのみ?それはいったい何故?」
「時。時の流れこそがその理由だ」
そう言うと、アスラは地面に円を描いてみせる。
「例えば地獄道においては永遠の苦が循環する。すなわち時は円を描く」
次にアスラは直線を引く。
「だが、人間道において、時は線的に流れる。生老病死、すなわち四苦だ。しかもその流れは極めて速い。天道に生きる神仏どもの生に比べれば、人の生などまさに須臾の間であろう」
厩戸は口を開きかけたが、それを制してアスラが続ける。
「本来この世界の住人ではない俺が、そのすべての力を解放したとする。するとどうなると思う?」
アスラは口元に薄く笑いを貼り付けたまま、厩戸に問いかける。
「いったいどうなりましょう?」
「うむ。人間道以外であれば、俺は何日でも全力で戦い続けることができる。しかし、時が直線的に速く流れる人間道では、力を解放できる時間は限られるのだ」
「なるほど。では、どれほどの時間であれば、その力を解放できるのですか」
「そうだな、およそ百を数えるほどの間であろうか」
「はあ?たった百だと?」
思わず声を上げた善徳をアスラは睨みつける。
「馬鹿め。今のこの姿であっても滅多に遅れは取らぬわ。ましてや小僧、今の貴様では俺の足元にも及ばぬ」
「ぐぬぬ」
歯噛みする善徳であったが、確かに今の姿でも悪鬼と化す前の夜叉王と互角に戦ったアスラを思えば、自分との力の差は歴然としている。いくら悔しくとも反論することは出来ない。
「それよりも小僧、お前に貸し与えた神剣天断、そろそろ返してもらおうか」
「は?」
言われて善徳は思わず腰の天断を握りしめる。これまで自分が使ってきた剣も、さすがに名門蘇我家の御曹司に与えられただけあって、名剣と呼ぶにふさわしいものであった。しかしこの天断は、それまで手にしてきた数々の名剣を遥かに凌ぐ、まさに神剣というべきものである。また、初めてとは思えぬほど手に馴染み、自在に振るうことができた。
返したくない。
縋るような眼で厩戸を見た。
だが、厩戸も首を横に振るばかりであった。
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