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アスラ

本日3話投稿の1話目です。

「ふん、こんなものか」

 アスラは自らの倍はあろうかという夜叉王を傲然と見上げて嘯いた。


「アスラどの!」

 厩戸の声に振り返りもせずに、夜叉王の腕を払いのけ、一歩前へと踏み出した。

「さすがに貴様らには荷が重かろう。ここで死なれては寝覚めが悪い。この俺が直々に相手をしてやろう」

 その言葉に応えるように夜叉王が咆哮した。


 夜叉王の剛腕が唸りを上げてアスラに迫る。

 それを受け流して背後に回ると印を結んだ右手を突き出した。

 すると天を揺るがす轟音とともに、激しい雷撃が夜叉王の背中を直撃する。

 その衝撃に、一瞬動きを止めた夜叉王だったが、すぐに振り返る。

 その目は怒りに燃え上がっていた。


 さらに速度を上げた剛腕の連撃がアスラを襲う。

 それを軽々とかわしながら、わずかな隙をついて雷撃を繰り出す。

 だが、互いに決定打には至らない。

 

 剛と柔。闇と光が激突する。

 空間が震え、砂塵が巻き上がる。

 その激闘を厩戸たちは息をのんで見つめていた。

「厩戸どの、あのアスラとやら、なにやら楽しそうではありませぬか」

 善徳の問いに、厩戸も頷いた。

 舞うように闘うアスラの口元には、微かに笑みが浮かんでいる。

 確かに夜叉王との戦いを楽しんでいるように見えた。


 一方、夜叉王は明らかに苛立っていた。

 全ての攻撃を受け流され、かわされ続け、有効な打撃を与えることができない。

 そのうえ隙を見せれば雷撃が飛んでくる。

 このまま体力を削られ続ければ、敗北は必至である。


 と、そこで夜叉王は大きく後方へ飛び、アスラから距離をとった。

 残っていた夜叉の群れの中央に降り立つと、周囲を睥睨しつつ大きく咆哮する。

 すると夜叉王の四肢から黒い霧が滲みだし、周囲の夜叉どもを包み始めた。

 霧に包まれた夜叉どもは、身の毛もよだつ断末魔の叫びを上げる。

 そして、次々にその魄だけを残して泡のように溶けていく。

 残された魄は渦を巻いて夜叉王の身体に吸い込まれていった。

 魄を吸収するたびに夜叉王の体が肥大化していく。

 肉が膨張し、骨の軋む音が周囲に響きわたる。

 やがて全ての魄が吸収され、次第に霧が晴れていった。


「ふむ。そうこなくてはな」

 嘯くアスラの眼前に、瞳を深紅に血走らせ、漆黒の炎を身に纏った巨大な悪鬼と化した夜叉王が姿を現した。


お読みいただきありがとうございます。

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