火界呪
本日3話投稿の3話目です。
「ぐっ!」
鋭い痛みが厩戸の全身を駆け巡る。骨の髄まで熱せられ、血液が沸き立つ感覚。苦悶の叫びが喉まで上がりかけるのを何とか耐えた。
アスラは満足そうな、しかしどこか危険な笑みを浮かべている。
「ふん。やはり耐えたか。良いか厩戸、お前の魂に火界の理を刻んだ。これでお前は火界の業火を自在に繰ることができるはずだ。火界の業火は悪しきものを焼き払い、穢れをも浄化する。夜叉どもの魄を滅することもできるであろう」
果たして自らの身に何が起きたのか。茫然と立ちすくむ厩戸に、アスラは苛立たし気に声をかける。
「まず、印を結べ。ほれ、このように」
見よう見まねで複雑な印を結ぶ。
「形だけでは意味がない。お前の魂に刻んだ火界の理をその形に流し込むのだ」
厩戸は目を閉じ、魂に刻まれた炎の力を意識する。すると、細く微かな、しかし確かな流れが感じられた。その流れを捕まえて指先へと導いていく。すると、組み合わされた指の間から微かな光が漏れ始めた。
「よし、その調子だ。次は真言だ。声に意思を乗せよ。お前の意思を炎に託すのだ。真言は、オン・アグニャ・シャバダ・ウン(炎よ、願いを成就せよ!)」
厩戸は深く息を吸い込む。
「オン・アグニャ・シャバダ・ウン」
すると、印を結んだ指先から小さな炎が迸った。しかし、それは一瞬で消え、厩戸の額に汗が浮かぶ。
「焦るな」アスラの声はむしろ冷静だ。
「炎は生き物だ。力ずくで従えようとするな。己の呼吸と同調させよ」
厩戸は頷き、眼前の空間を見据える。今度は力まず流れるように印を結びなおす。魂から発する炎の流れを感じながら、静かに真言を唱える。
「オン・アグニャ・シャバダ・ウン」
すると厩戸の手から放たれた炎は、揺らめきながらも消えることなく空中に留まった。それは掌大の大きさだが、先ほどとは違う確かな存在感を放っている。
「ふむ」アスラは満足そうに頷いた。
「だが、これだけでは蠟燭の火と同じだ。火界呪の神髄はお前の意思で自在に形を変えるところにある」
アスラは掌の上に炎を生み出し、瞬く間に様々な形に変化させた。鋭い刃となり、広がる盾となり、絡み合う鎖となった。
「見よ、炎はそれを繰る者の意思の延長だ。まずは業火の矢を思い浮かべ、夜叉の魄を貫いてみよ」
厩戸は深く頷き、再び印を結ぶ。今度はより強い意志を込めて。
「オン・アグニャ・シャバダ・ウン」
結ばれた印から紅蓮の業火が放たれた。虚空を切り裂き飛翔する紅蓮の矢が夜叉の魄を貫く。その瞬間、炎に包まれた夜叉は光の粒子となって霧散した。
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