夜叉との闘い
本日、3話投稿の2話目です。
結界から飛び出した二匹の鬼の咆哮が轟く。そこへ向かって夜叉の群れが押し寄せる。牙を剥き髪を振り乱し、四肢を大地に叩きつけるように迫ってくる。
天燈鬼の腕が唸りをあげて、先頭の夜叉をなぎ倒した。龍燈鬼は飛びかかろうとする夜叉の首をつかんで振り回す。それでも怯むことを知らない夜叉の群れは、倒れた仲間を踏み越えて次々と襲いかかる。
天燈鬼は一声吠えると宙高く飛び上がり、群れの中央に着地する。と同時に爪を閃かせて三体の夜叉の喉を一息に掻き切った。龍燈鬼もまた、いつの間にか手にした鉄棒を自在に繰りながら、血煙を上げて突き進む。
二匹の鬼と夜叉の群れ、互いに引くことを知らぬ死闘は、天地を揺るがす修羅絵図のごとき壮絶さであった。
「す、すごい」
善徳は人外の闘いに息をのみ、身じろぎもせずに見つめていた。
「厩戸どの、これならば夜叉どもを倒しつくせるのではありませんか?」
そう問われた厩戸だが、その表情はいま一つ冴えない。
「厩戸どの?」
「夜叉の数が減っていません」
「え?」
二体の鬼が夜叉どもを圧倒しているように見えるが、夜叉の数が減っていないのだ。
「見てください。天燈鬼たちが倒したはずの夜叉が、しばらく経つと再び立ち上がって闘いに加わっているのです」
見ると、確かに一度倒された夜叉が再び立ち上がって鬼どもに襲いかかっていく。
「おい、厩戸よ」
振り返るとアスラが手招きをしている。
「このままでは埒が明かぬわ。だから放っておけと言ったのだ。いくら鬼どもが暴れようともこのままでは夜叉どもを滅することはできぬぞ」
「だからと言ってあれらを外に出すことはできません」
やれやれというように首を振ると、アスラは厩戸の目を覗き込んだ。
「お前、あれが見えているのではないか?」
「あれ、とはいったい何のことでしょうか」
「夜叉の体の一部が紅く光っているのが見えているのであろう?」
厩戸が目を凝らすと夜叉の体の一部に紅く輝く部分があるのが見て取れた。
「あれは、いったい何でしょう?」
「あれは魄だ」
「魄、ですか?」
「うむ。人であれ人外の怪異であれ、その活動を司るのは魂魄だ。魂とは精神や心の働きを司る陽気の霊的な部分をいう。一方、魄とは肉体を司る陰気の霊的な部分を指す。長きにわたり封印されていたことで夜叉どもの魂は既に天に帰している。あれらは魄だけで動いているのだ。魄を地に還さぬ限り何度でも蘇る」
「どうすれば魄を地に還すことができましょう?」
「力押しでは魄は決して滅せぬ。だが、そうだな、お前、ちょっとこっちに来てみろ」
言われるままに厩戸が近づくと、アスラは右手の二本の指を厩戸の額に押し当て、左手で印を結んだ。
「良いか厩戸、まず全身の力を抜き、目を閉じよ」
いわれるままに厩戸は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いて脱力した。
するとアスラは印を結んだ左手で虚空に複雑な模様を描く。その刹那、一条の光が厩戸の全身を貫いた。それと同時にアスラの描く幾何学模様は複雑な曼荼羅と変化し、回転し、膨張し、厩戸を取り囲む。
「カン!」
アスラの声と同時に曼荼羅から噴き出した紅蓮の炎が流れ込み、厩戸の全身が深紅に染まった。
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