夜叉の群れ
本日3話投稿の1話目です。
「天界の夜叉?何故そのようなものがこの洞穴に?」
「元々は悪鬼の類だが、毘沙門天の奴が調伏して眷属として使っている。俺が天界を出たときに追いかけてきたのだが、相手をするのも面倒なのでまとめて封印しておいたのだ。俺が目覚めたことで封印が解けたのだろうよ」
「毘沙門天といえば四天王の筆頭ではありませぬか。」
するとアスラは苛立たし気に鼻を鳴らした。
「ふん。毘沙門のことなどどうでも良いわ。それよりお前ら、その四本の柱から外に出るなよ。柱の内側であれば俺の結界の範囲内だ。夜叉どもめ、200年以上も封印していたせいか、元の悪鬼に戻っておるわ」
見ると、無数の赤い瞳が闇の中に灯り、凶悪な唸り声が聞こえてくる。粘り気のある悪意と腐敗臭をまき散らしながら、100体を超える夜叉の群れが迫っていた。
「だ、大丈夫なのか?」動揺を隠せない善徳、一方、天燈鬼や龍燈鬼は腕組みをして夜叉の群れを睨みつけている。
「心配せずともあ奴らにこの結界を破る力などない。一刻もすればあきらめて出ていくであろうよ」
アスラの言葉に善徳が反応する。
「出ていく?それはこの洞穴から外の世界に出るということか?」
「そうだな。だが、外に出ても長くは生きられぬ。2日も経てば腐れて消えてしまうであろう」
善徳と厩戸は思わず顔を見合わせた。外では蘇我氏の一族が薬猟の最中だ。
「このままでは外の世界に被害が及ぶ。お前の力でどうにかできぬのか」
アスラはあせって問いかける善徳を見下すように首を振った。
「はあ?なぜ俺がそんな面倒なことをしなければならないのだ?」
「なぜって、、、あの夜叉どもはお前を追ってきたのであろう?お前が処理するのが道理ではないか」
それを聞いたアスラは心底呆れたようにため息をついた。
「知らんな。それを言うならおれを追わせた毘沙門に言え。それに夜叉どもは二日もすれば腐れて消えてなくなるのだ。多少の死人は出るであろうが、人族が滅ぶわけでもあるまいよ。とにかく俺は目覚めたばかりで疲れておる。面倒なことはお断りだ」
アスラはそう言うとそっぽを向いてしまった。
「厩戸どの、このままでは」
善徳に頷いて、厩戸は横に立つ鬼どもに顔を向けた。
「天燈鬼、龍燈鬼よ、あの夜叉の群れを何とかできぬであろうか」
厩戸の問いに、二匹の鬼は顔を見合わせた。
「厩戸よ。できぬこともないが、そのアスラとやらが申すことも一理あるぞ。放っておけばいずれ腐れてしまうのであれば、我らが手出しすることもあるまいよ」
「お待ちください、天燈鬼どの。洞穴の外には蘇我の一族が薬猟の最中なのです。このような化け物が外に出れば、どれほどの死人が出るか」
慌てて言い募る善徳だが、鬼どもは動かない。
「小僧、それがどうした。何人死のうと我らには関係ないわ」
「お二方は厩戸どのの兄弟ともいえる方々、蘇我の一族は厩戸どのの血縁の者たちです。お二方と関係なしとはいえぬのではありませぬか。どうかお力をお貸し願えないでしょうか」
「ほう、なかなかにうまいことを言う。だがな小僧よ、その血縁の一族が今まで厩戸に何をしてくれたというのだ?」
「それは」
善徳には答えることができなかった。捨て皇子と侮り、厩戸に手を差し伸べる者は自らも含め一人としていなかったのは事実だからだ。
「天燈鬼、龍燈鬼よ。元はといえば、俺がアスラどのの封印を解いたことがきっかけなのだ。俺からもお願いする。この通りだ」
厩戸は鬼どもに向かって深々と頭を下げた。
「む、むう、厩戸がそう言うなら、なあ、龍燈鬼よ」
「うむ、仕方があるまい、天燈鬼よ」
二匹の鬼は頷きあうと、夜叉の群れを睨みつけ、威嚇するように咆哮を上げた。
ほう、厩戸め、人外の鬼どもに頭を下げておるわ。鬼どもも厩戸の言葉には従うか。これは面白い。
厩戸たちのやり取りを横目で見ながら、アスラは薄く笑った。
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