六道の覇王
本日3話投稿の3話目です。
「オン・アスラ・ガーラ・ラヤーン・ソワカ」
「オン・アスラ・ガーラ・ラヤーン・ソワカ」
「オン・アスラ・ガーラ・ラヤーン・ソワカ」
厩戸がそう唱えると、氷のように透き通った巨大な塊が、静かに脈打つように光を放ち始めた。
刹那、雷鳴の如き破砕の音が響き、大地が激しく鳴動した。
轟音とともに巨大な塊は爆ぜ、無数の欠片が光の雨となって舞い落ちる。
眩いばかりのきらめきの中から現れたのは、封印されていた時の優美な姿とは異なる三面六臂の異形。 しかしその姿は恐ろしくも崇高で、見るもの全ての心を震わせる美しさを備えていた。正面の顔は憂いを帯びた少年の如く、右の顔は憤怒の炎をたたえ、左の顔は深い慈愛に満ちている。
厩戸一行の誰もが息をのみ、身じろぎすらできずに見つめる中、やがてその全身から光を発し始めた。眩いばかりの光は渦となり、異形の姿を包み隠した。次の瞬間、周囲の闇を押しのけるほどの輝きを放つと、その光の中から現れたのは、三面六臂の異形からさらに変化した何者かであった。
漆黒の髪を天髷に結い上げ天衣を纏ったその姿は儚げであり、少年のような面影を帯びている。
しかし、その表情といえば。
髪色と対を為す漆黒の瞳は冴え冴えとした光を宿し、わずかに上がった唇は微笑とも嘲笑ともつかない相をなしている。そこにあるのは星々を従え天をも下に見るような、誇りと傲慢の交差する、孤高の威厳そのものであった。
「お、お前は何者だ!」重苦しい沈黙を破ったのは善徳である。
ゆっくりと善徳に視線を向けると、傲然と胸を張る。
「俺か。俺はアスラ、六道の覇王、アスラだ」
「アスラだと?か、怪異の類か」声を震わせて問う善徳にアスラは嘲笑うように鼻を鳴らして肩を竦めた。
「怪異だと?ふん、己の理解の及ばぬ者を怪異と切り捨てる、いつの世も人間の考えることは同じだな。俺が何者であるかなど、どうでも良いことだ。俺は俺であって俺以外の何者でもないからな」
そう言い放つと今度はゆっくりと厩戸に顔を向けた。
「厩戸よ。まずは礼を言っておく。お前が我が真名を唱えたおかげで目覚めが200年ほど早まったわ」
「200年?察するに随分と長きにわたって封印されていたようですね」
「は?封印?この俺を封印できる者など三千世界にただの一人も存在せぬわ。己の意思で眠りについておったのだ」
「自ら眠りについていたと?いったいどのような理由でそのような」
「ええい、うるさい。お前の知ったことではないわ」
ぷいっと顔を背けたアスラに厩戸は呆れたように首を振った。
「おい、厩戸よ」
それまでアスラとのやり取りを黙って聞いていた天燈鬼が、慌てた様子で厩戸に声をかけた。
「なにやら怪しげな気配が近づいてくるぞ」
そう言って、もう一方の出口を指さす。
「ほう、気付いたか。どうだ、厩戸よ、お前にもわかるか」
アスラに問われた厩戸は、しばらく出口の方向に目を凝らしていたが、やがて厳しい表情で頷いた。
「良からぬ気配を感じます。攻撃的な意思、害意、いや殺意とでもいうべき兇悪な感情。あ
「あれか、あれはな、天界の夜叉どものなれの果てだ」
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