洞穴②
本日3話投稿の1話目です。
「そのようなことがあったのですか」
厩戸の話に驚きはしたが、これまで不思議に思っていたことが氷解もした。厩戸には馬子の考えるような後ろ盾など存在はしていなかったのだ。そして、例え怪異どもの助力があったとしても、厳しい環境を一人で生き抜いてきた厩戸のことを素直に立派だと感じてもいた。
「では天燈鬼どのや龍燈鬼どのは、まこと厩戸どのの家族のようなものでありますな」
「お、おう、よくわかっているではないか」
「う、うむ、人にしては見どころのある小僧であるな」
大変わかりやすい鬼どもではあった。
厩戸によれば、この洞穴は結界によって隠されていたらしい。結界を破ったまさにその瞬間、善徳が飛び込んできたために必要以上の力が加わり、揃って転がり落ちたというわけだ。まことに面目ない話である。
「善徳どの、今後のことなのですが」
そう言われて善徳は、あらためて状況を確認する。上を見上げれば、自分たちの落ちた穴はかなり深いことが解る。手掛かりなしに登っていくのは無理であろう。かと言って、じっと待っていてもすぐに助けが来るとは思えない。
さて、どうしたものかと思案していると、厩戸に提案があるという。
「実は、この先に人が立って歩けるほどの横穴が開いております。どこへ続くものかは分かりませぬが、我らは先に進んでみようと思うのです。良ければ同行いたしませんか?」
厩戸の提案に異論のあるはずもなかった。
天燈鬼が印を結んでなにやら呪を唱えると、前方に柔らかな光が灯る。
「では、参りましょう」厩戸の声を合図に一行はゆっくりと横穴を進んでいく。
地中深く続く横穴を進むにつれ、湿った土の匂いと冷たい空気が鼻腔を刺激する。足元には長い年月の間に積もったと思われる塵と細かな砂粒が敷き詰められ、微かな風が奥へと吸い込まれていくのが感じられた。
天燈鬼の灯す明かりを頼りに慎重に進んでいくと、やがて前方にぼんやりとした光が
見えてきた。
その光に導かれるように進むと、突然視界が開け、広大な空間が現れた。
天井は高く、どこからか微かな光が差し込み、空間全体を幻想的に照らし出している。その空間の中央には巨大な水晶のような塊が聳え立っていた。
「う、厩戸どの、これは」
「もう少し近づいてみましょう」恐れる様子もなく、厩戸は中心に向かって歩みを進めていく。
「これは」
思わず立ち止まり、息をのむ。
見上げるほど巨大な塊の中に、何者かが封じ込められていた。
その姿は美しくも儚げで、身に纏う天衣は舞うように流れ、閉じた瞼には深い憂いが宿っているかに見える。ガラス細工のように繊細な体躯は少年にも少女にも見え、年のころさえ判然としない。その肌は透き通ったように白く輝き、まるで時が止まったかの如く静かに眠り続けている。
その場に立つ者すべてが言葉を忘れたかのように黙り込み、封印された何者かの存在に圧倒され、引き込まれるような感覚に囚われていた。
お読みいただきありがとうございます。
もう一人の主人公の登場であります。
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