洞穴
本日3話投稿の、3話目です。ちょっと短めです。
突然、足元が崩れ、視界が一瞬で暗転した。
地面が消え、体が空間に投げ出される。
視界が激しく揺れ、冷たい空気が肌を切り裂き、風が鼓膜を叩く。
地の底に激突する直前、時間の流れが緩慢になり、無意識に体を丸める。
やがて、衝撃。
鈍い音とともに丸めた背中が地面に叩きつけられ、土埃が舞い上がる。
厩戸が痛みに耐えて上を見上げると、遠く狭まった光の輪が、ただぼんやりと輝いていた。
「ううっ」
体の節々が悲鳴を上げている。無理矢理に目を開くと、心配そうに覗き込む厩戸と目が合った。
「う、厩戸どの」
「おお、善徳どの、気が付かれたか。怪我などされてはいまいか」
厩戸に手を引かれ、善徳はゆっくりと身を起こした。
「厩戸どのこそ、お体に障りはございませぬか」頷く厩戸にほっと息をつく善徳であった。
厩戸に襲い掛かろうとしていた鬼どもの魔手からは、どうやら無事に逃れることができたらしい。
「それにしても危ないところでしたな。宇陀野にあのような鬼が棲みついているとは。父上に申し上げて、直ちに薬猟を中止してもらわねば」
苦笑いする厩戸を前に、善徳はさらに言い募る。
「なに、蘇我家の精鋭を差し向ければ、いかな鬼とて抗することはできますまい。必ずや討伐してみせましょう。あのような悍ましき化け物、生かしておくわけには、、、」
「誰が、悍ましい化け物じゃ!」
「ぶち殺すぞ、小童が!」
善徳の頭上に、突然大音声が響き渡る。
「うおっ」文字通り飛び上がった善徳だったが、気丈にも厩戸を背に庇い、二匹の鬼を睨みつける。
「う、厩戸どの、ここはこの善徳が足止めいたします。どうかお逃げ下され」
「これ、いい加減にせぬか」
厩戸の言葉に、それまでたけり狂っていた鬼どもが黙り込んだ。驚いた善徳が振り返ると、厩戸が仁王立ちで鬼どもを睨みつけていた。
「う、厩戸どの、これはいったい?」
厩戸は善徳に向き直ると、深々と頭を下げた。
「善徳どの、驚かせて申し訳ない。だが、これらは見た目ほど悪いものではないのです」
「み、見た目ほどって、お前」抗議の声を上げる鬼どもを一顧だにせず、厩戸は自分と鬼どもの数奇な出会いと常人には理解しがたい関係について語り始めたのであった。
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