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飛鳥異聞~日出処の天子と六道の覇王アスラ  作者: ダンケ
序章:覇王との邂逅

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厩戸皇子

本日3話投稿の1話目です。

「厩戸よ、鹿を狩らぬでも良いのか」

「うん、良いのだ」黒駒に変化した龍燈鬼に、厩戸は笑って答える。

 参加することで、母に対する義理は果たした。だが、黒駒(天燈鬼)と雪丸(龍燈鬼)のおかげですっかり悪目立ちしてしまったのだ。主催者の蘇我馬子にまで目を付けられてしまった。これ以上の耳目を集めるのは本意ではない。


 だが、二匹の鬼たちはそうではない。厩戸に手柄を立てさせようと張り切っているのだ。

 もちろん、二匹の鬼に願えば、見たこともないような立派な鹿茸を狩ってくるであろう。だがそれでは蘇我馬子の疑念を強めることになる。

 厩戸は、家族ともいうべき怪異どもとの暮らしを気に入っている。できれば、このままそっとしておいて欲しかった。

「もう少し、人のおらぬ静かな場所へ行こうか」そう言うと、厩戸は黒駒から降り立ち、先に立って歩き始めた。


 しばらく歩くと、やや開けた場所に出た。三方を崖に囲まれ、小さな川が流れている。野営するにはちょうど良い場所に思えた。

「厩戸よ、ここで野営するのか」龍燈鬼が問う。

「であれば、われが周りを調べてこよう」天燈鬼が勇んで駆け出した。


 いつも賑やかな厩戸の屋敷であったから、二匹の鬼とゆっくり過ごすのは久しぶりのことであった。屋敷に残した怪異どもは不平を鳴らすかもしれないが、こういうゆったりとした時間も良いものだ。腰を下ろした厩戸の横で、雪丸も満足そうである。


 しばらくして偵察に出ていた黒駒(天燈鬼)が戻ってきた。

「厩戸よ。奇妙なものを見つけたぞ」

「奇妙なもの?」

「うむ、あの正面の崖の近くだ」

 行ってみよう、と厩戸は立ち上がった。黒駒が先に立ち、雪丸も後に続く。しばらく歩いたところで黒駒が立ち止まった。


「わかるか?厩戸よ」

 天燈鬼の示す先を見つめる厩戸は、その周辺の空気の凝りに気付いた。目には見えぬが、微弱な圧力が感じ取れた。

 一歩前に出た厩戸は、両掌をゆっくりと前に押し出す。すると、微かな光の線が、空間に広がる幾何学模様を描き出した。

「これは結界術、遮目陣か」すなわち隠蔽、目隠しの結界である。

 うむ、と天燈鬼は満足げに頷いた。

 

 結界術とは、特定の領域を外部から遮断したり内部を防御するために、「結界」と呼ばれる目には見えぬ障壁や境界を作る術である。上位の怪異である天燈鬼や龍燈鬼は、自在に行使することができた。

厩戸に結界術の手ほどきをしたのも、この鬼どもであった。教えを受ける厩戸は、驚くほどの才能を示し、二匹の鬼を驚喜させた。


 結界術には大きく三つの類型が存在する。敵の攻撃や侵入を防ぐ防御型、特定の存在や力を閉じ込める封印型、外部から見えなくする隠蔽型。遮目陣とは隠蔽型の代表的な結界である。


「この結界の向こうに何があるのか知りたいとは思わぬか」

「なかなかに強固な陣、術者は相当な力量であろうな」

 二匹の鬼は結界を破る気満々である。

 一気に変化を解き鬼の姿に戻ると、両手を結界へと向け複雑な印を結び始める。すると空間に描かれた幾何学模様に沿って光が駆け巡り、周囲の空気が震えだした。結界の崩壊が始まろうとしたその時だった。


「厩戸どの!」

 放たれた矢の如き勢いで、何者かが飛び込んできた。


お読みいただきありがとうございます。感想、レビュー、ブクマなど、ぜひお願いいたします。作者の励みとなります。よろしくお願いいたします。

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