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蘇我善徳

本日3話更新の3話目です。

 宇陀野の原へ馬を進めながら、蘇我善徳は先ほどの蘇我馬子とのやりとりを思い返していた。厩戸皇子のこと、気に留めておけ、と馬子は善徳に告げたのだ。


「は?父上、それはどういうことでございましょうか。厩戸どのがいかに高貴なお生まれとは言え、勝ちを譲る気など毛頭ございませぬ。ましてや、付き人の一人も連れてはおらぬご様子、われが後れを取るとは思えませぬが」

「あたりまえじゃ」苦い顔でそう答えると、馬子は善徳の連れた騎馬の手綱に手をかけた。

「この馬は馬飼部に命じて最高のものを用意させた。だが、厩戸どのを見よ。勝るとも劣らぬ立派な騎馬を連れておるわ」


 なるほど、確かに厩戸皇子の騎乗する馬は他を圧する馬格を持ち、黒々とした毛並みも素晴らしい。また白い猟犬も巨大な体躯に加え、精悍な表情からもその有能さが伺える。

「ですが、付き人もおらぬでは鹿茸を狩ることはできませぬ」

 神の使いとされる鹿の殺生は禁忌であり、鹿茸を得るには鹿を数人がかりで抑え込まねばならない。付き人のいない厩戸皇子では、鹿を追い込むことはできても鹿茸を狩ることはほぼ不可能であろう。


「だがな、善徳、あの皇子にはなにやら得体の知れぬところがある」

「と、申しますと?」

「あの見事な馬や猟犬を連れてこられたこともそうじゃが、家人もおらぬ屋敷にたった一人で長年暮らしておられることも、考えてみれば不可解である」

 言われてみれば、確かにそうだと善徳も思う。厩戸皇子は年端もいかぬ幼い頃から広大な屋敷でひとり暮らしていると聞く。捨て皇子と呼ばれる所以である。

「厩戸皇子を支える何者かがいる」馬子の視線は厩戸皇子に向けられている。


「では、それが何者であるかを見届けよと?」

「いや、そうまでは言わぬ。あくまでも鹿茸を狩ることが本筋。ただ、気に留めておけ、ということだ。あくまでもこの薬猟の主役はお前だ」そう言って励ますように善徳の肩を叩くと、馬子は屋敷の庭へと歩み去っていった。


 あくまでも気に留めるだけで良い、と馬子は言ったが、あの父上にそこまで言わせる厩戸皇子とはいったい何者か。そしてその厩戸を支える後ろ盾とは、どれほどの力を持つ勢力なのか。

 この明日香の地にあって、蘇我家の与り知らぬことなどあってはならない。何としても真相を明らかにせねば。


 よし。

 薬猟は2日間ある。鹿茸を狩るのは1日あれば十分であろう。今日は徹底して厩戸皇子の動きを探ってやる。

 蘇我善徳は、そう心に決めたのであった。


お読みいただきありがとうございます。明日も3話更新の予定です。よろしくお願いいたします。

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