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飛鳥異聞~日出処の天子と六道の覇王アスラ  作者: ダンケ
第1章:飛鳥擾乱

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アムリタ

7/25 本日投稿分です。

 牛頭馬頭の強襲を辛くも退けた厩戸たちは、洞穴の奥へと歩みを進めた。

 強敵の去った洞穴は、それまでの激闘が嘘のように、不気味なほどの静寂に包まれている。

 緩やかな下り坂を進むにつれ、洞穴内は暗さを増し、天井は高くなっていく。

 空気は湿り気を帯び、身体にまとわりついて肌寒さを感じる。

 足元には小さな水溜まりが点在し、濡れて滑りやすくなっていた。


「きゃっ」

 転びそうになった嶋を刀自古が素早く支える。

「嶋ちゃん、気をつけて」

「ありがとう、刀自古ちゃん」


 地の底へ誘うかのように続く下り坂がようやく緩やかになり、一行の前に広く開けた空間が現れた。

「厩戸、あれを見よ!」

 広大な地下空洞の中央に、神々しいまでの光を放つ球体が鎮座していた。

 薄暗い洞穴の中で、黄金の光がゆっくりと脈打っている。


「兄さま、あれがアムリタ?」

「どうやらそのようだな」

 刀自古の問いに善徳が静かに頷いた。

「なんて美しい」

 嶋が息を呑んで見つめている。

「ようやくここまで来ました」

 厩戸が一歩踏み出した瞬間。


 ズン!


 洞穴全体が波打った。

 アムリタの黄金の光が激しく明滅し、大気が震え始める。

「なんだ?」

 天燈鬼が周囲を見回し、龍燈鬼が鼻をひくつかせる。


 次の瞬間。

 黄金の光が波紋のように広がり、厩戸たちを包み込んだ。

 途端に景色が歪み、視界が暗転する。


 思わず閉じた目を開いたとき、厩戸の目の前には惨憺たる情景の飛鳥の都が広がっていた。

 都大路を跋扈する瘟鬼、疫病に倒れ伏す民、死体に縋りついて泣き叫ぶ子供。

「た、助けて」

 厩戸の手を伸ばして助けを求めながら力尽きて倒れていく病人の群れ。

「なぜ、このような目に」

 己の不幸を呪い、怨嗟の声を上げる人々。

「これは、幻?」


 善徳のまた別の幻を見ていた。

 神剣天断を手に立ち尽くす善徳。

 その足元には血に染まった厩戸と刀自古が倒れている。

「こ、これは?われが?」

 善徳は頭を抱える。


 刀自古は無人の都大路を駆けていた。

「兄さま、嶋ちゃん、厩戸さま。どこに行ったの?」

 いつも一人ぼっちだった子供のころの悪夢が蘇る。

「そうだ!家鳴りちゃん!」

 一緒にいたはずの家鳴り。

 だが懐を探ってもそこに家鳴りの姿はない。

「どうしたらいいの?」

 おもわず座り込む刀自古。


 天燈鬼と龍燈鬼は、仲間の怪異たちが人間たちによって滅ぼされていく光景を。


 嶋もまた自らの治癒術で誰一人救うことができず、大切な人たちが次々と息絶えていく姿を。


 生命の記憶を操るアムリタは、一人ひとりの精神に直接干渉し、幻を映し出していく。黄金の光を脈打たせながら、侵入者たちを決して近づけさせまいとしているのだ。


 それがアムリタの見せる幻だと知りながら、厩戸はそこから抜け出すことができないでいる。脈動する黄金の光の中、苦悶の表情を浮かべ、一歩も動けずに立ち竦んでいた。


お読みいただきありがとうございます。

評価(星)、ブックマーク、感想、レビュー、いいねなど、ぜひお願いいたします。

明日も1話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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