想い
7/24 本日投稿分です。
牛頭は善徳の斬撃によって傷を負い、馬頭は厩戸の決死の火炎呪によってその身を焼かれた。だが、闘いに敗れ去ったわけではない。
その表情から余裕は失せたが、未だ旺盛な闘志と覇気をその身に纏っていた。
「むう、牛頭も馬頭も個では押し切れぬか」
闘いを見つめている徐福の眼は冷静そのものだった。
このままでも勝算がないわけではない。
だが時間をかけるのは得策ではないだろう。
いつアスラが現れるやも知れぬからだ。
アスラが参戦すれば、一層難しい戦いになる。
「牛頭よ、馬頭よ」
牛頭と馬頭の脳裏に徐福の声が響く。
「なんとしても、こ奴らをこの場で倒さねばならぬ。貴様らの力を信じぬわけではないが、ここは確実に仕留めに行く。血盟融合を用いるぞ」
牛頭が顔を顰めて馬頭を見る。独力で倒したいという牛頭の戦士としての矜持が馬頭に伝わる。
だが、馬頭は静かに首を振る。
「ここは、徐福の言に従うべきだ」
「ちっ」
牛頭は舌打ちをしてそっぽを向いた。
「無間招闇、血盟融合!」
徐福が呪文を唱える。
洞穴内に渦が生じる。
馬頭はその渦に向かって歩みを進め、立ち止まって牛頭を見る。
牛頭は、馬頭を睨んでいたが、やがて観念したように渦に向かって歩み始めた。
「む。待て。逃げるのか!」
善徳の叫びに、牛頭が悔しそうに振り返る。
その牛頭の肩を抱えるようにして、馬頭が渦の中に飛び込んだ。
二体を飲み込んだ謎の渦が、明滅を繰り返しながら膨張していく。
耳障りな音を発しながら渦の回転が速くなる。
やがて、渦の内部から大音量の咆哮が轟いた。
「来るぞ!」
渦の中から現れたのは、巨大な体躯に双頭を載せた鬼、牛頭馬頭。
右手に巨大な矛、左手に鋭利な青龍刀を油断なく構え、四つの瞳で厩戸たちを睨みつけている。分厚い筋肉の鎧を纏った体から、尋常ならぬ闘気が溢れ出ていた。
「グオオオオオ!」
天地を揺るがす咆哮を上げると、牛頭馬頭の全身から漆黒の業火が噴出した。深紅に染まる両眼が爛々と輝き、全身の剛毛が逆立つ。全身の筋肉が厚みを増し、溢れ出す闘気が大気を震わせる。
次の瞬間、牛頭馬頭の姿が消えるた。
超速で移動した牛頭馬頭の巨矛の一撃で龍燈鬼が吹き飛ばされる。
天燈鬼の張った結界も青龍刀の一振りで粉砕された。
「させない!」
唯一、牛頭馬頭の速さに対応できた刀自古が拳を打ち込んだ。
しかし、鋼のような筋肉の鎧を纏った牛頭馬頭は微動だにしない。
そこへ善徳が黄金の剣戦を幾重にも放つ。
巨矛と青龍刀でその全てが弾き返される。
「まだだ!火炎呪!」
紅蓮の炎が牛頭馬頭に襲い掛かる。
だが、牛頭馬頭の全身を覆う漆黒の業火がその炎を無効化する。
「「無駄だ。何をしようと貴様らに俺たちを止めることなどできはしない」」
双頭から発せられた声が重なった。
大きく振りかぶった巨矛が厩戸に向かって振り下ろされる。
天燈鬼が割って入り巨盾を構える。
龍燈鬼が金棒を差し込む。
善徳が天断で受ける。
刀自古が足払いで体勢を崩そうとする。
だが、牛頭馬頭の理不尽な怪力によってすべてが無効化され、全員が吹き飛ばされた。
嶋が治癒の呪言を唱えた。
「慈しみの光!」
薄緑の光が仲間たちを包みこむ。
厩戸が立ち上がる。
仲間たちも次々と立ち上がる。
善徳は神剣天断を支えに。
刀自古は拳を握り。
天燈鬼は巨盾を構え直し。
龍燈鬼は金棒を担ぎ。
誰一人として諦めてはいないのだ。
厩戸は仲間たちを見つめる。
この仲間たちを何としても守り抜く。それが厩戸の想い。
そして、その厩戸を守りたいという仲間たちの想い。
「想いの強さが術の威力を左右する」
アスラの言葉が頭をよぎる。
ならば。
仲間たちすべての想いを束ねて一つにしよう。
想いのすべてをこの身に引き受けるのだ。
そう思い至ったとき、厩戸の魂に新たな炎が灯った。
厩戸は目を閉じ、真気を練り上げる。
仲間たちの想いが流れ込んでくるような感覚。
「オン・アグニャ・シャバダ・ウン!」
厩戸の掌に炎が灯る。
はじめは赤く、やがて黄色に、そして次第に青みを帯びていく。
「これは!」善徳が目を見開く。
「兄さま、炎の色が!」刀自古も口元を手で覆う。
嶋が、天燈鬼が、龍燈鬼が、仲間たちすべてが瞠目する中、厩戸は真気を練り続ける。
「われの想い、皆の想いをこの一撃に。火炎呪!」
その瞬間、炎は巨大な青い火の鳥となって羽ばたいた。
「む。いかん!」
闘いを見つめる徐福が目を剥く。
青い炎が牛頭馬頭に襲い掛かるその瞬間。
「無間還闇!」
徐福が牛頭馬頭の召喚を解いた。
轟!轟!轟!
青い炎が周囲を焼き尽くす。
だが、すでに牛頭馬頭の姿はない。
厩戸たちは互いの無事を確かめ、頷きあう。
激闘を制したのは、厩戸たち、その強い想いが強敵を退けたのだ。
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